内蔵の痛み

医学生の頃は、人間はどうやって内蔵の痛みを感じているのだろうという事を不思議に思いました。 むしろ医学を勉強していない方にとって、あまりに身近すぎて不思議にも思わないかもしれませんね。 

皆さん、例えば尖った物を例えば右足で踏んづけると、右足の裏が痛いと見なくても感じますね。 運動神経の良い人だと、強く踏んづける前によけたりする人もいるかもしれません。 この様に痛みが発生した部分を理解し意識する事、これは動物が生きていく上でとても大切な本能です。  なぜなら痛みを意識しても、痛みの発生場所が分からなければ、結局衝突を避ける事が出来ず、いろいろなものに体をぶつけて、骨が折れたり化膿して死に至る場合もあるでしょう。 
神経には運動神経と感覚神経があります。 それらは最終的には大脳につながるのですが、ただバラバラに大脳とつながっているわけでは無く、 順序だてて、脊髄という脳からお尻に向かって伸びる比較的太い神経の束にまとめられてから脳に到達します。 脊髄は脊椎(背骨)の真後の空間にあるため、運動神経と感覚神経はこの脊椎の隙間を通って、ある程度まとまって脊髄に接続されています。 この一つ一つのまとまりを体節と言いますが、 一つの体節につながる運動神経と感覚神経はほぼ同一の体の部分に対応します。 恐らく、どの場所の感覚神経の刺激が体のどの部位に相当するのかという対比は、漠然とこの体節の場所で判断されているとも想像されますが、医学的には運動神経と感覚神経は、脊髄でも大脳でも全くはなれた場所に分布しているために、痛みの場所を感じているメカニズムはそれほど簡単な仕組みでは無い様です。 ただ難しい話しはおいておいて、動物は皮膚の痛みの場所をきちんと「意識」する事が出来ます。
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じゃあ内蔵の痛みはどうなのでしょうか? 
内蔵の痛みや感覚は、やはりこの体節と関係があるのではないかと言われています。 内蔵の感覚神経は、皮膚の表面についている感覚神経に比べて原始的な構造をしています。 そして同様に体節の分布に従って脊髄に接続されているため、体節の同じ部分の皮膚の感覚と混じりあい、混同するのではないかと言われています。 なので、ほぼ内蔵のある部位の真上の表面近くに感じるというわけです。 ただしこの場所の感覚は、大人の臓器の位置ではなく、神経系が出来上がる頃の胎児期になります。  
受精卵が赤ちゃんに成長する間に、人間はその進化の過程をなぞって成長していきます。 神経系が出来上がるのは、受精卵が丁度メダカの赤ちゃんの様な形をしている頃に原型が出来上がります。 ほとんどの臓器は成人になっても場所が大きく移動する事は有りませんが、心臓はとても大きく移動します。 心臓は元々「えら」の近くに作られる臓器です。 「えら」は動物が陸上で生活するようになるにしたがって消失して行きましたが、下顎骨から首あたりの存在するはずの臓器です。 陸上の生活では、肋骨で守られる方が衝撃から守られるという点で都合が良いという事で、胸の真ん中肋骨の内側あたりに進化の過程で移動するのですが、感覚神経だけは元々の心臓が出来た場所の体節を通って脊髄に入ります。  そのため心臓の痛みは左の頚部、胸部の上の方、左手の内側、左の奥歯にかけてその痛みが出現するのが典型的です。 しかし、多くの患者さんを拝見していると、頻度は少ないですがお腹や背中等に痛みが出る方もいらっしゃいます。  また、ご高齢の方や、糖尿病の患者さんは、内蔵の感覚神経が弱っているため、ほとんど痛みを感じない方もおられます。 
内蔵は外から触れられる臓器ではないのに、痛みがあったりその感覚の場所を理解し意識する事が出来る。 何のためにそのような機能が備わっているのか不思議ですが、医者にとっては、体の負担になる様な大きな検査をせずとも、病気に早く気付き、手遅れになる前に治療が出来る、とても役に立つ機能です。 
三好クリニック(内科)
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