三好クリニック 青山・表参道

内科・循環器・高血圧・不整脈

重力に負ける人 3

目が回って、立ち上がれない
バットまわりといって、頭を垂直に立てたバットの柄に頭を付けて、バットの周りをぐるぐる一定時間回転して、頭を外して走りだすと、まっすぐ走っているつもりでもあらぬ方向に走っていってしまうという遊びを知っておられるでしょうか? 回転椅子に乗ってぐるぐる回って、ピタット止まると、周囲の景色が止まった後もぐるぐる回って見える現象で遊んだことみなさんあるんじゃないでしょうか? この原因は三半規管といって頭の中で耳の近くに付いている器官の誤作動が原因です。 この三半規管が一時的に妙な信号を脳に送り始めることがあります。 三半規管のリンパ液の中に存在する耳石という石が原因とも言われていますが、中年以降の患者さんに多い病気です。 「良性発作性頭位めまい症」と言いますが、頭がある方向を向くと地面がせり上がってくるように感じたり天井が回るように感じたりして気分が悪く、吐いたりしてしまうことがあります。 こういう頭の方向がきっかけとなって出現するめまいは、基本的に良性で放置していても2週間ぐらいで自然に回復してくるようです。 一方で、頭の方向に関係なく、常に世界が回っているみたいに動いてしまう場合は、脳の病気であることがありますのでやはりすぐに病院を受診されたほうが良いでしょう。

こういった良性の回転性めまいは通常1-2日ほどで自然に軽快しますが、その後もめまいがするような感じや、まっすぐ立っていても、後ろに引っ張られるような感じがして立つのが怖くなってしまって、それが何ヶ月も続く患者さんが時々いらっしゃいます。あまりこういった症状が長期間続く場合には、脳内の病気の可能性もありますので、一度頭部のMRI検査等を受けてもらうことになりますが、MRI検査で異常がなければ、酔(よい)という現象と診断できます。 船酔い、乗り物酔い、宇宙酔い、ゲーム酔い、酔にもいろいろありますが、今回はこの酔という現象についてちょっと説明してみます。

体の体勢を感知している3つのセンサー
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人間は自分の体勢を、主に3つのセンサーで感知しています。 視覚と三半規管と関節や骨格に付属している深部感覚というシステムです。
その3つのセンサーがうまく組み合わさって自分の体勢を確認しているのですが、それらにズレが生じると「酔」という状態になり、気分が悪くなり嘔吐します。 この現象は不愉快な場所から逃げるための自己防衛機能の一つとも考えられているようです。

連動している三半規管と眼球の運動
特に視覚と三半規管は密接につながっています。 歩行等などの複雑な振動や回転等をした時に、眼球を一つの方向に固定して網膜の上に映る像を安定させることができます。 カメラの手ブレ補正みたいなものと考えて貰えると良いでしょう。 みなさんビデオカメラを歩きながら(きちんととったつもりで)撮影した影像を、テレビで見ると絵がぶれて全く見るに耐えない絵が取れてしまう経験があると思います。 眼球もこういった三半規管がなければ、このビデオカメラと同じ像が脳に送られ、歩いているだけで酔ってしまいます。 眼球の周囲の筋肉と頭蓋骨の後ろの小さな筋肉を巧妙に操り、動いている時も眼球を一定方向に保ち、ブレの無い画像を脳が見ているのです。 たとえば、鏡で自分の目を見ながら首を左右に振ってみるとよくわかると思います。 皆さんの眼球は気持ちが悪いぐらい固定されて、顔だけ動いているように見えるでしょう。 眼球の動きにズレが生じないように、三半規管からの情報は眼球の筋肉とほとんど直結されているのです。

酔いが起こるメカニズム
「ゲーム酔」
  • 例えばゲーム酔いといって、First Person Shooter (FPS)ゲームプレイヤーの初心者が、ゲームをやっているだけで気持ちが悪くなることがあります。 FPSゲームではリアリティを出すために、歩行時に像が上下に揺れます。 またコントローラーやマウスを急激に動かすと、絵が急激に変化します。 視覚情報が大きく動くのに三半規管からの信号が無く、2つのセンサーに誤差が生じるため気分が悪くなり「酔い」が発生するのです。
「良性発作性頭位めまい症」
  • 良性発作性頭位めまい症等では、三半規管が誤作動を起こして「頭が回転している」という誤情報を発信するとそれに合わせて眼球が自動で動きます。 患者さんは眼球が動いているとは認識せず、世界の方が回転し始めたと感じます。 その時に起こる恐怖感は、交感神経を刺激して興奮状態となります。 この興奮が全身のセンサーを敏感にし、よりズレを認識しやすくし、さらに酔いを加速させます。
「車酔い」
  • 車酔いや乗り物酔いはどうでしょうか? 三半規管は3方向の回転を認識します。 垂直方向の回転、これは頷く動作ですね。 もう一つは横方向の回転、これは左右に頭を水平方向に回転させる動きですね、いわゆる「いやいや」と首を横に振る動作です。 もう一つの回転ってみなさん解りますか? これは少々説明が難しいです。 これも横方向の回転です。 これは頭を左右に傾ける動作、「はてな?」という動きですね。 この向きを冠状面方向といいます。 冠状面方向に左回転や右回転をする動作になります。 はじめの2つはみなさんよくやりますが、左回転や右回転は実はあまり日常に行っている動作では無いです。 体育などで側転等を行うときに使っていますかね・・。 でも大人になって毎日側転をしている人は少ないですよね。 眼球の筋肉で前者2つの動きを補正できますが、冠状面の回転に相当する眼球の筋肉はありません。 その補正は(頭蓋骨の後ろについている筋肉を使って)首を傾けることで行っているわけです。 頭蓋骨を動かすので眼球を動かすのと比べて時間がかかりますし、補正には限界があります。 車酔い、乗り物酔いはこういった、冠状面での回転、ローリング振動で、視覚の情報が大きく揺らぐことがきっかけで始まります。 一つには吐いてみんなに迷惑かけてしまうかもという緊張から更に感覚が鋭敏になりますし、吐く準備として本能的にうつむき加減になります。 うつむき加減になると車の加速や減速の時の動きや左右に曲がる際の強い動きが、悪いことに眼球が苦手な冠状面の動きになってしまいます。 また首が動く方向が限定され、ローリングによる画像のブレを処理できなくなり、「酔い」が加速してしまうのです。 そして人の眼球は垂直方向の運動が苦手です。 眼球とともにマブタを一緒に動かす必要がある分横方向の動きよりも少し時間がかかります。 うつむいてしまうと、車の減速や加速は、縦方向の振動となるため、更に視覚情報とのズレを増強してしまいます。 ですのでよく言われることですが、景色の見える前の方の座席に座って、顔を上げて前の景色を見たり、吐いても大丈夫なように時々外に出て緊張をほぐしたり、歌を歌ったり友人とおしゃべりして緊張をほぐすことで感覚を鈍感にすることで乗り物酔いをある程度予防できるようになります。
「船酔い」
  • 船酔いはどうでしょうか? 私は船酔いしたことが無いので本当はよくわからないのですが、船酔いは船室にいても甲板など外の景色が見える場所にいても起こると聞いたことがあります。 なので、バスや車などの乗り物酔いとは少々異なるのかなと思います。 皆さん回転椅子等でぐるぐる回った後に、突然停止するとしばらく景色が回転するのを体験したことがあると思います。 これは液体特有の慣性によると言われています。 環状の三半規管の中のリンパ液の流から回転の方向とスピードを感知していますが、突然停止してもしばらくはリンパの慣性のため流れが止まらず、だらだらと回転しているかのような信号を発信しつづけてしまいます。 この慣性は頭の方向を変えるぐらいの短い動作でも生じているはずですが、通常は慣性による余韻だと自動的に無視しています。 ただ恐怖や不安、興奮や寝不足等でセンサー感度が敏感になるとこの余韻を無視できなくなり、急な動作のあとにグラっときたりするのだと考えられます。 海の波の振動はあまり始点や終点がなく連続的です。 なので三半規管に入る回転の信号が、本当に移動に伴う信号なのか慣性による偽の信号なのか判断することが難しくなります。 その場合人体はおおまかに2つの対応をします。 一つはすべての信号を本物の信号だと考えてセンサー感度を上げるか、逆にすべてを偽の信号だと考えてセンサー感度を下げてしまうかです。 三半規管のセンサー感度を下げてしまっても、視覚の情報や深部感覚の情報だけで、ある程度船上でも行動が可能ですし、船酔いになりません。 逆にセンサー感度を上げてしまうと、船上で動くたびに、行動に伴う信号と慣性による誤信号を感知するために視覚情報と三半規管との情報に誤差が生じて船酔いしてしまうのだと考えられます。 陸地に戻ったあとも暫くの間、三半規管が慣性による誤信号も本当の情報だと誤認してしまうため、酔の状態が続くのだと考えら得ます。
「地震酔い」
  • 地震によって余震が続くと、同じように地震酔いという状態が生じることがあります。 これはやはり地震による恐怖と、生存本能から地震に対して敏感になり、頭の移動時の慣性に伴う三半規管の余韻に伴う誤信号を感知してしまったり、それまで感じていなかった微妙な体の動き(まっすぐ立っているつもりでも人は微妙に揺れていますので)を感知して地震による揺れがあるように錯覚してしまう現象なのでしょう。

酔が起こるメカニズムのまとめ
いろいろ「酔い」について解説してみましたが、要するに(1)人はうつむいていると振動や揺れに弱くなる。 (2)興奮や緊張、不安はセンサー感度を上げてしまい、通常無視している不必要な三半規管の信号を感知してしまい、めまいを感じやすくなる。 (3)ひとは左右回転(冠状面)の揺れに弱く、ついで縦方向の揺れに弱い、といったところでしょうか。 一言で言うと酔わないためには慣れが大事です。 慣れることで不安が取り除かれ、視野のブレやセンサー同士の誤差に強くなり、異常が起こっているセンサーを無視できるようになります。 そのためには、めまいがあってもそれが危険な病気では無いということがわかったら、平常通りの生活を心がけることが大事になります。 そうしているうちに必ず普通通りの生活に戻ることができるようになります。 

次回は
「歩いているだけで酔ってしまい、怖くて出歩けない」です。