血圧は左手で測るほうがよいの? それとも右手?

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きっちりした先生に言わせると、血圧は右手で測定したほうが良いはずだとおっしゃられる先生がいらっしゃいます。 私も医学生の頃そのように教わった記憶があります。 患者さんの中にも「血圧測定するなら右手だ」と考えておられて、右手を出される方が時々いらっしゃいます。 私のクリニックでは患者さん側の左側に血圧計があるので、右手を出すためには上半身を90度ねじる不自然な姿勢になるのが少々困るところです。
私自身の考えは、血圧は、時々左や、時々右で測ってもらうのが良いと思っています。 そしてできればリラックスできる体勢で測ってもらうのが良いので、あまり体をねじらないで測るのが良いだろうなと内心思います。 前傾姿勢になるのは、腹筋や背筋に力がはいるのであまり好ましくないでしょう。 筋肉に力がはいるということは筋肉に血液を送り出すために血圧が少し上がり気味になります。 背もたれにきちんと背中を預けて、足は折りたたまずに、少し前に伸ばすような感じ、お行儀が悪いですが、電車の中であまり褒められない姿勢(足を通路に投げ出すのはエチケット違反ですね)、車の運転の時のような姿勢といったほうが良いでしょうか? で測定するのが良いでしょう。
右で測るべきたとおっしゃる先生の根拠は、右の腕につながっている動脈血管(右腕頭動脈)のほうが、心臓に近い大動脈から出ているからという理由や、左の腕に繋がる動脈(左腕動脈)と右の腕に繋がる動脈の間に、先天的にくびれがある(大動脈縮窄症)方がまれにおられて、くびれより心臓側で測定しないと正確な血圧が測定できないという理由を挙げられます。 しかし圧力が変化してしまうほどのくびれがある方は稀で、そういった方は小児期にすでに診断と治療されている方がほとんどです、私のクリニックにいらっしゃるほどの年齢になって初めてわかる方はかなり例外的です。 むしろ動脈硬化や動脈炎などで、右腕頭動脈や左腕動脈に狭窄ができることによって起こる血圧の左右差のほうが無視できない頻度であることが予測できます。なので左右どちらが正しい血圧かを重要視するよりも、まず左右差があるのかどうか、そしてその次にもしも左右に差があまりないのならば、一番リラックスできる体勢で測定できる血圧を測るほうが良いということになります。
左右差があるかどうかを確認するには、同時に2台の血圧計を左右の腕に巻き付けて測定するのがよいですが、それは少々やり過ぎでしょう。 簡単に測るのは、まず左で測定し、次に右で測定する。 血圧が20mmHg以上変化あるようならもう一度、左を測定し、次に右を測定してみて、同じような傾向があるか確認してみてください。 測定回数にしたがって常に下がってくるようなら、それは測定前の動作の余韻が解消されているだけで、前のほうの高い血圧はあまり意味がありませんが、何度繰り返しても常に、右が左よりも20mmHg以上高いようなら、やはり主治医の先生にご相談頂いたほうが良いでしょう。 ご家庭での皆さんの血圧測定がきっかけで、狭窄が見つかったりすることのほうが多いのです。
なので私の意見は、「血圧は時々腕を変えて測定してみてください。 いつもきまってどちらかの腕の血圧が20以上高いようなら、主治医に相談ください。」ですね。

『血圧計って何をはかっているのですか?』

腕に布を巻いて、圧力を加える。 健康診断や、ヘルスセンター見られる血圧計。 たしかにそれっぽい値が出るのだが、いったいどうやってはかっているのだろうか? 疑問に思われた事は無いでしょうか? 

本来血圧とは、血管の中の圧力を圧力計で測定する物で、当初は水銀を使って測定していました。 測定のたびに針を血管の中に刺して圧力をはかる必要があったのですが、痛いし大変なので、コロトコフという医師がその痛くない測定法を考案したのが始まりでした。 血液が普通に流れている血管の上に聴診器を置いても音は聞こえませんが、腕の周りに布(マンシェットと言います)を巻いて外からある一定の圧力以上にすると、血液が流れなくなります。 血液が流れないので、全く音はしません。 少し圧力を下げてゆくと、血液が収縮期だけに流れるようになり、”とん・とん”と心拍に同期して音が聞こえるようになってきます。 この時の圧力が最高血圧となります。 そして、さらに圧力を下げて行くと、収縮期・拡張期両方で血液が止まる事無く流れるようになり、音も消失します。 このときの圧力が最低血圧と一致するわけです。
今の自動血圧計はこの音をマイクを使って電子的に計算しています。 なので、マイクの位置が、肘の動脈の上に無いとなかなか集音出来ず正確な圧が測定出来ません。 
薄い衣服なら良いですが、セーターなどの空気をたくさん含んだ厚手の衣服の上からですと、音がうまく拾えず測定出来なかったり、肘が曲がっていると、血管が筋肉に埋もれてしまってうまく音が拾えない事があります。 厚手のセーター等を着ておられる場合は、やはり片袖を脱いで、測定された方が良いでしょう。 横着して、腕の露出する部分が短かったり、マンシェットがセーターに引っかかったり、シャツがしわしわになって、一カ所だけ厚くなっていたりすると正確な値が出なかったりします。
マンシェットを巻く際に指一本入るぐらいの隙間がある事が大事で、きつすぎても、ゆるすぎてもうまく測定出来ないです。 緩みの程度でマンシェットが腕を圧迫する幅が変わるからです。 血圧計のマンシェットの幅は腕の測定部位の腕の直径の1.2倍の長さである事が必要です。 長過ぎれば、低い圧力で血流が止まり、短すぎれば高い圧力をかけなければ血流が止まらなくなり、前者では低めで、後者では高めで測定されます。 なので緩いと、腕との接触面積が小さくなり高めに測定されます。 逆に、きつすぎると低めに測定されてしまいます。 本当は腕の太さは患者様でそれぞれ違いますので、マンシェットの幅もそれにあわせてかえなくてはならないのですが・・。 それはなかなか煩雑で難しいという事もあって、一般的には11cmほどの幅のマンシェットで測定する事になります。 腕の直径の1.2倍の長さの幅のマンシェットだと、マンシェットで圧迫している圧力で測定した音の出現するタイミングと、血管の中の圧力が同じぐらいになるという、経験をもとに長さが決まっている訳です。 
また最近の血圧計は不整脈があると、周りの雑音を拾っていると勘違いするのか、うまく測定出来ない場合もあります。 そのような場合は、医者に測定してもらうしか無い場合があります。

『上の血圧と下の血圧・どちらが大切?』

血圧
血圧を計ると、数字が二つ見えます。 高い方と低い方です。 正確には最高血圧と最低血圧と言います。 言いにくいので上の血圧、下の血圧と呼ぶ事が多いでしょうか。 動脈硬化を防ぐのにどちらの血圧に注目すれば良いかと言えば、答えは両方とも大事です。 ただ、二つの血圧を覚えているのは大変なので、普通は最高血圧の方を覚えておられる場合が多いでしょうね。 現在の血圧治療の基本は、自宅等での安静時に上の血圧が130、下の血圧が80を切る事です。 糖尿病や心臓病や大血管の病気をお持ちの方はこれより、上が120、下が70を目標にする事が多いです。 少し体を動かしたりしゃべったりした後、リラックスすると、上の血圧は比較的大きく変動する事が多いですが、下の血圧は余変動しない事が多いです。 なので診察室で下の血圧が高い場合、少し注意を払う必要があります。

最高血圧

上の血圧は、心臓が収縮して、心臓の中にあった血液が、大血管に送り込まれる事によって出来る圧力です。 運動や興奮していて心臓の収縮力が増えたり、心拍数が上がれば上がって来ます。 また高齢者などで血管が動脈硬化で硬くなっているような場合、血管が伸びて心臓からの圧力を吸収する事が出来ず、予想以上に上がる場合があります。 

最低血圧

下の血圧は、心臓が一旦大動脈に血液を送り込んだ後、大動脈弁が閉じて、そのかわり肺や左心房から血液を左心室へ取り込んでいる間の大動脈内の圧力です。 (ちなみに、心臓の筋肉を栄養している血液はこの時期に流れますので、心臓の筋肉を栄養している冠動脈と言う動脈への血流はこの下の血圧で決まっています。) この圧力は大動脈の閉鎖が不十分だったりするとすぐに低下してしまいますし、逆に、組織の毛細血管の手前の血管が動脈硬化や、緊張状態で収縮していたりすると、大動脈に血液がたまった状態が続くためなかなか血圧が下がらず、下の血圧は高くなります。 結構良く見られるのは、おなかに脂肪の多い方ですね。 大きく育った脂肪細胞への血管はかなり抵抗が大きいですので、下の血圧は十分下がり切らない傾向にあるようです。 体重を減らす事はとても重要です。 また下の血圧は緊張していて心拍数が早い場合に高くなる傾向があります。 心臓は心拍数が変わっても収縮している時間は0.3秒程度であまり大きな変化がありません。なので心拍数が早くなると、拡張している時間が短くなります。つまり、大動脈が閉じて下の血圧が十分に下がるための時間が少なくなり、下の血圧もそれにつれて上がってしまいます。 緊張して、心拍数の早い状態の血圧は、治療の目標ではないので、医者は心拍数を見ながら、患者さんが緊張していないか探っています。

自宅で血圧を計られる場合、上の血圧と下の血圧の他に心拍数、そして出来れば体重等も測定していて頂けると助かるのです(こちらはまた後日解説します)。

『血圧が高いとなぜ動脈硬化がおこるのですか?』

血液は、栄養素や酸素を臓器に運び、そして臓器から排出される二酸化炭素や老廃物を回収します。 この血液の流れを作っているのが血圧です。 血圧が高くなればその分効率よく血液を循環させる事ができます。
日常生活で最も血液を必要とする臓器はやはり筋肉です。 なので筋肉をほとんど使わない安静時には血液をそれほど必要としません。 ですので、動いている時に血圧は上がり、安静時に血圧は必要最小限の値になります。医者がみているのはこの必要最小限の血圧の値です。

血圧が高いと、動脈硬化が速く起こり、血管が詰まってしまって脳梗塞や心筋梗塞を起こします。 そして薬を飲んででも、きちんと血圧を下げるとある程度予防できる事も解っています。 しかし、実は血圧が高くなる事で動脈硬化がおこる原因はあまり明らかではないのです。 ですが、最近血液の中に血管の表面を修復するための幹細胞が少量流れている事が解り話題となっていましたが、こういった細胞が動脈硬化を予防するのに重要なのではないかと想像されています。
ここからはあくまでも推測ですが、血圧が高いと、血管は風船の様に押し広げられたり、血液の流れが速いと、血管壁が削られ細かな傷が付きます。 ちょうど河川の浸食を思い浮かべて頂くと解りやすいでしょうか?  血液中の幹細胞は、これをいつも修復しているようなのです。 糖尿病や喫煙者等では、こういった幹細胞の数や機能が低い事が知られています。 通常血圧が下がっている時点で、このような細かな傷は修復されやすいのかもしれません。 なので血圧が高い状態が続けば修復が追いつかず、血管は破壊されたものとして、貪食細胞の様な炎症性細胞が血管壁に集まり、不適切に修復してしまうのだと推測されます。 このような修復だと、血管の内側へ盛り上がって修復され、弾力性も失われてしまうものと想像されます。 また一旦弾力性が失われた血管は心臓から送られてくる脈波を十分に受け流す事が出来ず、さらに血管壁をいためてしまうのかもしれません。
いずれにせよ、安静時の血圧をきちんと下げておく事、そして糖尿病の予防と禁煙は、将来の動脈硬化を予防し、脳梗塞や心筋梗塞、腎不全等を起こさないためにとても重要な事なのです。

『肘の所ではかる血圧計と手首や指ではかる血圧計がありますが、どれが正しい血圧計なのですか?』

一般的に医者が治療の方向を決めている血圧は肘につける血圧計のデーターを見ています。 血圧を出しているのは心臓ですから、心臓から離れた方が測定出来る圧は低くなるように思われがちですが、実は逆で血圧は心臓から離れた方が高くなる傾向があります。 これは、心臓から送られてきた脈が毛細血管の少し手前側で反射して、その反射した脈と心臓から送られてくる脈が重なって、圧力がさらに高くなるという現象がおこります。 血管が柔らかいと反射する波が小さいため、重なる波が小さくてすみますが、動脈硬化が進み血管が固くなると、この反射する波が大きくなり、肘から手首、指先へ行くにつれてどんどん血圧が高くなってきます。 なので出来れば肘の上で計る血圧計を使ってもらえるとありがたいです。
ただ、手首や指先ではかる血圧計は小型で持ち運びが良いという利点があります。 手首の血圧計は医者が測定している血圧と少し異なるという不都合はありますが、自宅での血圧の傾向はわかりますので、手首ではかっているという事をおっしゃっていただいて、測定を続けていただくのは問題ないと思います。
また圧迫するために巻いている布の部分(マンシェットと言いますが)が心臓と同じ高さにある事が重要です。 肘の血圧計だと、どのような姿勢になってもほとんど心臓と同じ高さになりますが、手首の血圧計だとなかなかそのあたりが難しいかもしれません。 水銀の比重を13.6とすると、心臓より20cm低い位置で血圧を測定すると、15mmHg程度肘で計る血圧計より血圧が高めに測定されてしまいます。

『測定するごとに血圧が170とか120とか大きく変わってしまうんですが、どれが本当の血圧なのですか?』

それはどれも正しい血圧です、でも治療の基準にする血圧は安静時のリラックスしたときの血圧を使います。

皆さん運動すると、心拍数が増加してドキドキしますね。 運動したり食事の後などに胃や腸に血液を送ろうとしようとするさいに、たいていの方は心拍数が上がり、それにと同時に血圧もあがります。 血圧があがれば臓器への血液の流れが多くなり、栄養や酸素を効率よく送る事ができると言う訳です。 ですので体が活動しているときには血圧は高くなり、安静にしていいてエネルギーが必要ないときには血圧は自然と低くなります。 治療の目標はこの安静時のリラックスした時の血圧を治療の指標にします。
活動というと、走ったり泳いだりするときの事を考えたりされるかもしれませんが、ゆっくり歩いたり、話をしたり、食事をしたりするのも、ちょっとした活動になります。 患者さんの中には、血圧測定中に「今階段を上ってきたところなので血圧が高いかもしれない」とお話されたりする方がおられるのですが・・。 しゃべるだけで血圧は10~20ぐらいは上がりますので逆効果です。 ゆっくり落ち着いて、状況をお話されなくてよろしいですので、高ければ測定後に教えていただければよろしいかと思います。 三好クリニックでは、上がり症で血圧が上がってしまう様な方の場合、ベットに寝てもらって測定する事もしています。
安静時の血圧とは、3分ぐらい横になって、その後しゃべったり動いたりせずにゆったりと血圧測定ボタンを押してもらったときに測定される血圧と思っていただけると良いと思います。 横になって測定できなければ、テーブルに座って、血圧計をまく腕輪(マンシェットと言います)を心臓と同じ高さにして測定していただくのがよろしいかと思います。 くれぐれも、おしゃべりしながらとか、怖いテレビを見ながら測定してしまうと、安静時の血圧を正確に評価する事ができませんのでご注意ください。

三好クリニック(内科)
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