細胞に酸素を届けるという事

循環器は、心臓と体中に張り巡らされた血管をつかって、効率よく酸素を全身の臓器に送り出すネットワークです。 実際には酸素以外も運搬しますが、ここでは酸素を全身へ送るという点に焦点を当ててみます。

酸素は大事


どの生命体の生命活動もアデノーシン3リン酸(ATP)という共通の分子に頼っています。 糖や脂肪などの栄養素も結局はATPを作り出す原料に過ぎません。 ATPは細胞膜を通過する事ができず、さらにあまり長期間保存出来ないため、一カ所でまとめてATPを作って全身の細胞に供給すると行った事は出来ません。 そのためそれぞれの細胞でATPを作り出す必要があります。
植物が光合成を行う前の地球環境では大気中に酸素が少なく、植物が生まれる前の微生物は酸素が無い状態でも生命活動のためのエネルギー単位ATPを作り出していました。 しかし大量の酸素が作られてからは酸素を使った方が圧倒的に効率が良いため、人は酸素を使ってエネルギー単位であるATPを作り出しています。 そして緊急事態に対応するために、骨格筋肉等には酸素を使わないでATPを作り出すシステムも残していて、低酸素の状態でもある程度の活動を行う事が出来ます。 ただそれはあまり長続きせず、大量の乳酸が発生して活動を停止したり、疲労が残ったりします。 たくさんエネルギーが必要になる時には大量の酸素が必要になるのです。 では酸素はどうやって細胞まで運ばれるのでしょうか?

酸素は必要な時に必要なだけ送られます


全身の筋肉は運動するときに非常に多くの酸素を必要とし、循環器はその必要な酸素を供給しようとします。 十分な酸素が届かなければ、疲労し息が上がり、筋肉が痛くなり最終的には動けなくなります。  運動したり興奮したりすると、人間は心臓がどきどきして顔が赤らみます。 そのきっかけになるのは、アドレナリンというホルモンです。 アドレナリンが分泌されると心拍数が上昇して、一回ごとの心臓の収縮が力強くなり血圧があがり、筋肉等を流れる血液のスピードが早くなり、時間あたりの血液の通過量が多くなります。 簡単に言うとアドレナリンを使って心臓のパワーを調整して、酸素の運搬速度を早めていると言う事になります。 ただ、心臓のパワーが上がっても、筋肉や細胞に届く酸素が増えるわけではないのです。 筋肉の近くで血液の中の酸素を、細胞に送り届ける事が必要になります。

GUM06_CG02031 のコピー

赤血球が酸素を細胞へ効率よく運ぶ


赤血球等が含まれた赤い血液は毛細血管の中を流れています。 血管の壁に仕切られた外側には赤血球無く、リンパ液という無色透明の液体で満たされています。  細胞が直接触れているのはこのリンパ液で、いくら近くに大量の血液が流れていても、細胞に直接触れるリンパ液にきちんと酸素をわたして行かなければ、酸素はそのまま再び心臓へ戻って行ってしまいます。
酸素はほとんど液体に溶けません。酸素を運ぶため、赤血球特にその中に含まれるヘモグロビンという蛋白があります。 脱線しますが、血液が赤い色はヘモグロビンの色でもあります。 酸素がたくさん結合したヘモグロビンは明るい赤色、結合していないヘモグロビンは暗い赤色となります。 それぞれ動脈血液と静脈血液の色ですね。酸素はヘモグロビンにとても強く結合しているので、そのままではなかなか血管の外に酸素が出て行きません。筋肉の近くで酸素をヘモグロビンから切り離す必要があります。 
ヘモグロビンは、酸素の溶解度が低い場所や、酸性の環境で酸素を放出しやすくなります。 酸素がたくさん消費される場所や、乳酸や二酸化炭素がたくさん発生している場所で、ヘモグロビンから酸素が切り離されて、酸素が放出されます。 液体に溶け出した酸素は血管の壁を通過する事が出来ますのでそのままリンパ液に到達し、細胞まで拡散してゆきます。
ヘモグロビンのこの機能が無ければ、酸素は十分組織に行き渡る事が出来ず、人体の活動は制限されます。

毎日の有酸素運動が酸素の取り込み能力を高める


習慣の様に毎日、有酸素運動を長時間行う運動選手は、しばしば、安静時の心拍数が減少したりする事はよく知られています。 また軽度な心不全の患者さんに、適度な有酸素運動を続けてもらう事で、呼吸困難等の心不全の症状が改善する事が有る事は以前からよく知られてしました。 心臓の仕事量がほとんど変わらなくても、筋肉等の末梢組織での酸素取り込み能力が上がる、筋肉等の毛細血管の密度が増えると言った説明がされている事が多いですが、実のところあまりよくメカニズムは解っていない様です。 こういった酸素のやり取りの効率も良くなっているのかもしれませんね。
さらに静脈に眼を向けると、筋肉はのびたり縮んだりする事で、その中にある細静脈やリンパ管の中の体液を、弁付きポンプの力を使って、心臓へと戻そうとするでしょう。 筋肉は第2の心臓とも言われるのはこういった理由です。 こういった機能が運動を続けてゆく事で改善してゆき、心臓にむやみに負担をかけなくても、無理なく酸素を全身に送り出す事が出来るようになるのだろうと想像されています。 
運動不足は動悸・浮腫等の原因になります。 少し動くだけでドキドキしてつらい、すぐに息切れする、浮腫がちという方は、毎日(毎日が重要みたいですよ)定期的に有酸素運動を行う事で、心拍数が落ち着き、動悸の症状が改善が期待で来ます。 運動って大切なんですね。 
三好クリニック(内科)
〜青山・表参道〜