ワーファリンとは

ワーファリンの作用


ワーファリンは血液を凝固するために必要なタンパク質を作るのに必要なビタミンKととても似た構造をしています。 しかし実際にはビタミンKの様な作用が有りません。 ですので、ワーファリンを飲むとビタミンKの作用を押しのけて、血液凝固のための蛋白が減少します。 ビタミンKはいろいろな食物中に少量づつ含まれています。 中でも、納豆・モロヘイヤ・クロレラ等に大量に含まれています。 (納豆の原料の大豆にはほとんど含まれていません。) つまり食事全体の量が変わったりしたり、納豆やモロヘイヤ・クロレラと言った食品を食べたり食べなかったりするだけで、食物中のビタミンKの値が大きく変動する事になります。 ワーファリンの効果は、ビタミンKを押しのけて作用しますので、取るビタミンKの量が変わるだけで、その効果が大きく変化してしまいます。 そのためワーファリンを使用する場合、納豆やモロヘイヤ・クロレラと言った食品を食べないでもらう様にお願いしています。 また体調不良で食事が長期間とれなくなってしまった場合や、季節によって食べる食材が大きく変わる方には、その都度ワーファリンの効果を確認する必要有ります。 それはワーファリンの効果が強すぎれば、脳出血・胃からの出血等・血尿等の症状が出る可能性が有りますし、少なすぎれば、脳梗塞等の血栓塞栓の症状が出てくる事になります。
ワーファリンの量の調整
ワーファリンの効果を測定する方法はいろいろありますが、三好クリニックでは、採血すれば数分で結果の判定できる、測定器を用意しています。 ですので、診察の直前に採血して頂き、その効果を判定して、ワーファリン量をその場ですぐに決定する事が出来ます。 最近ワーファリンに変わる、新しい抗凝固薬(ダビガトラン)が発売されて注目されています。 それは、ワーファリンの様に凝固のための蛋白を作らせない様にするのでは無く、凝固のための蛋白を直接阻害する薬なので、納豆やクロレラと言った食品の制限も有りませんし、季節によって量の調整をする必要は有りません。 しかし定期的に腎機能を確認する必要がありますので、ワーファリンで安定している患者さんと採血の頻度はあまり変わらないと思います。 不測の腎機能悪化で、ダビカトランの効果が急激に強くなり、大出血を起こす可能性があるからです。 ですので、三好クリニックでは、患者さんにこれらの点を説明した上で、ワーファリンとダビガトランを選んでもらっています。
ワーファリンの効果を表す値として、INRという値を使います。INRとはinternational normalized ratio=国際標準比と言いますが、プロトロンビン時間という計測値を(ざっくり言えば血液が凝固するまでの時間)測定して、その時間が正常値からどの固まりにくいかと言う事を示しています。1が正常で、大きくなると出血しやすくなります。 ワーファリンを内服している場合、75歳以上の患者さんでは1.6から2.5の間にコントロールされる様にワーファリン内服量を増減しますし、75歳以下ですと、2.0から3.0の間にコントロールする場合が多いです。 ワーファリンの半減期は2.5日と長いですので、一日わすれていても、少し効果が残っていますが、あまり飲み忘れる事が無い様にする必要があります。 4より高くなると、結構いろいろなところから、簡単な傷からでも出血しやすくなったりします。 ワーファリンの量は多すぎても少なすぎてもいけませんが、半減期が比較的長いので、毎日測定してワーファリン量を変更する必要は有りません。 しかし導入期には2週間から1ヶ月に一回程度、安定して来て、季節での変動があまり無い方では、2ヶ月や3ヶ月に一回の採血になる方もおられます。
 

ワーファリンを飲んでいて注意する事


また他の長期的に内服する内服薬でも、値が大きく変動する場合があり、ワーファリン以外の薬を変更したりする際には、注意が必要です。 よく、経験するのは、胃酸を押さえる薬の一部、抗菌剤等の投与で急激にワーファリンの効果が増強して出血したりする事が有ります。 一般的に長期的に内服する薬で経験する事が多いです。 また肝機能がお悪い方(肝硬変や肝炎等)で予想を越えてワーファリンの効果が強くなる事が有ります。 
一般的な日本人の体格で、一日量2mgから4mg程度で落ち着く場合が多いですが、時に10mg近く内服しなくては、INRが治療域に達しない方がおられます。 そのように多くの量が必要な方は、ビタミンKの食品を実は食べておられたりする事もありますが、それが守られていれば、体質的な物だと言われています。 

納豆とワーファリン

納豆は体に良いと言われています。良質のタンパク質が含まれていることもありますが、その他に「ナットウキナーゼ」という血液の固まりを溶かす成分が含まれています。 つまり血栓予防(一般には「血液さらさら」とか、「ドロドロ血予防」とか言う表現がおおいですね)的に働きます。 口から食べた酵素が、分解されずに吸収されて血液をさらさらに出来るかどうかについては、議論が分かれますが、動物実験などではそのような効果があるようです(ヒトで有効性は証明されていません)。

一方で納豆は、ビタミンKというビタミンを大量に含んでいます。 ビタミンKは皮膚や血管が傷ついたときに、その傷を素早く塞ぐために血液の中にあらかじめ流れている(血)糊タンパク質を作るのに必要なビタミンです。 簡単に言えば血を固まりやすくしていることになります。 ですのでビタミンKがなくなると、軽く皮膚を圧迫しただけで、大きな内出血を起こしたり、胃や腸・そして脳などで出血を起こして、致命的になることもあります。 その一方で、血が固まりやすい患者さんにはあまり良くない蛋白でもあります。

心房細動などで血栓ができやすい人。 特に「心臓弁膜症があったり機械弁を植えている人」「心臓のポンプ機能が落ちている人」「糖尿病のある方」「高血圧がある方」「脳梗塞などの既往のある方」「75歳以上のご高齢の方」では、このビタミンKの働きを悪くする薬、ワーファリンを内服してもらっています。 後は人工弁等が入っている方もそうです。

心房細動の患者さんと話していて、「どうしても納豆が食べたい」、「納豆食べられないなら死んだ方がよい」とおっしゃる方が時々おられます。 最近、処方できる様になったプラザキサという抗血栓薬は、ビタミンKによって作られた血糊の蛋白を直接ブロックするので、ビタミンKを摂取しても問題有りません。 しかし、この薬剤も弱点があります。「人工弁が入っておられる方」や、「心臓弁膜症のある方」、そして何よりも問題になるのは「腎機能が落ちてられる方」には、未だにワーファリンが必要になります。 少し脱線しましたが、プラザキサの無い時代には、こういった方で、特に脳梗塞のリスクの比較的少ないと思われる方には、「仕方ないので、じゃあ納豆毎日食べてくださいね」といって経過を見ていた患者さんが何名かおられました。 しかし、10年程外来をしてみて思う事は、無理してでもワーファリンを飲んでいる方の方が、肌つやがよく、元気で10年過ごされている方が多いのに対して、ワーファリンを使わずに、納豆を食べる様にお願いしている患者さんでは、10年で少しずつ、弱ってこられて、ぼけてこられたりしておられる方が多いような気がします。 これはあくまでも印象でしか有りませんが、しっかりとした抗凝固療法(ワーファリン)が、生命予後を長くする事は臨床研究でも明らかになっており、やはり必要なのだなと最近実感しています。 

じゃあワーファリンとはどういう物か、この続きは
次のブログで説明します。
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