腫瘍マーカー

人間の死因の1/4は癌だと言われています。 私の専門の心臓に癌が少ない事もあって、それほど多くの癌患者さんを拝見した訳では無いと思います。 しかし慶應の外来で拝見していた患者さんの中に、あるいはこちらのクリニックから慶應に紹介した患者さんの中にも(開院して2年経っていないのに)、癌の患者さんは少なからずおられます。 皆さんの周囲でも、よく話してみると「実は癌なんですよ」というかた、比較的多いのではないでしょうか? 癌はそれほど珍しい病気ではありません。 
癌で命を奪われる事は、患者さんやその家族にとってつらい別れであり、出来れば避けて通りたいものです。 患者さん本人にとって、癌で死んでしまう事が本当に悪い事なのかそれとも実は良い事なのか、誰も死んだ経験が無い生者の世界の我々が推しはかる事など出来ないのでしょうが、医師として生者の側の人間から言えば、癌は早く見つけて、手術で腫瘍のみを取り除いてあげたいと、ただただ思うのです。

しかし、小さな癌を見つけるのは結構大変です。 症状があれば、それなりに腰を入れて医者も患者さんも大変でも検査を行いますが、そうでないとなかなか大きな検査を行う事はしません。 例を挙げれば、内視鏡の検査や画像検査の様な大掛かりな検査は、患者さんに肉体的・精神的・金銭的にも負担を強いる事になります。 さらに念を押しておくと、頻度は少ないですが、検査であっても事故やアレルギー等によって死亡したり後遺症を残したりする危険性もあります。 その一方で、時々、とても珍しい癌で、若い20台ぐらいの患者さんが無くなられたりしてニュースになったりする事があります。 そのような頻度の少ない癌を見つけようとするならば、全員が生まれてからすぐに、胃カメラ・大腸鏡・レントゲン・CT検査やMRI検査・PET検査を毎年行えば良いはずです。 しかしよく考えてみてください、10歳の子供たちに、例えば「大腸鏡をしましょう」と言えば、患者さんは普通嫌がります。 その場ではいやがらなくても、患者さんは2度とそのクリニックにいらっしゃらないのではないでしょうか?  つまりここで皆さんに違和感があるのは、検査の大変さと、癌の可能性が釣り合っていないという点なのです。 

そんな大掛かりな検査をする前に、採血等もう少し負担の少ない検査で、陽性になった患者さんだけをさらに詳しい検査をする様になれば、大変な検査であっても患者さんが検査を受けるモチベーションが上がります。 皆さんは腫瘍マーカーという言葉を聞いた事があるかもしれません。 癌の中には、ある特殊な蛋白や物質を大量に分泌するものがあります。  癌の種類によってそれぞれいろいろな物質を分泌するので、結構いろいろな腫瘍マーカーがあります。 私のクリニックでも、時々、ある程度以上の年齢の方には定期的に、「腫瘍マーカーの検査をしますよ」と、採血のときにあらかじめお断りしてから検査をする事が多いです。 

ただし、腫瘍マーカを分泌しない癌が多いという事は、患者様にも理解していてほしい点です。 たとえ腫瘍マーカーが陰性であっても、癌で無いとは言えない。 具体的に言えば、腫瘍マーカーが陰性である事に安心して、つらい内視鏡の検査はやめましたというのが最も危険なストーリです。   最近、三重大学の先生方が、大腸癌をmiR-21というマイクロRNAを用いて鋭敏に検出出来るという事が
ニュースになっていました。  先ほど例に挙げた検査の中で、大腸鏡が最も患者さんへの負担が強い検査の様に思います。 比較的多くの患者さんが無くなられる大腸癌を、採血といった簡単な検査である程度、確認する事が出来る様になれば本当にすごい事だなと思います。 しかしまだ実用には至っていない様ですので、今のところは、精度は低いですが、腫瘍マーカーの検査や検便の検査を行い、それらの検査で疑わしければ大腸鏡をお願いする事になりそうです。
三好クリニック(内科)
〜青山・表参道〜