高血圧と塩

私どものクリニックでは、全体の患者さんの中で1割から2割ぐらいの患者さんが血圧のコントロールだけの目的で来院されています。 最近高血圧の患者さんを診察していて、何名かの方に連続して塩分制限の話をする事になりました。 慶應の外来をしているときには、「塩分気をつけてくださいね」と言うだけでそれ以上深くお話する事は出来なかったのですが、三好クリニックでは、少し立ち入った話を出来た訳です。

実はほとんどの高血圧患者の方は、塩分の制限をするだけで薬を飲まなくても血圧は正常になります。 そう申し上げると、「いや私は塩分には気をつけているのですが」とおっしゃられる患者さんがほとんどです。 でも適切な塩分量をコントロールするのは実はとても難しいのです。 その最も大きな理由は皆様自身の舌の感覚でしか摂取する塩分量を決める事が出来ない点にあります。 もしも皆様の舌の感覚が狂ってしまっていたら、適切な塩分量をコントロールするのは不可能です。 そして高血圧の多くの患者さんは舌が過剰な塩分に慣れてしまっています。 慣れによって感覚が狂ってしまっているのです。 これが減塩がうまく行かない一番の理由だと思います。 

外食・コンビニの弁当・スーパーのお惣菜の味が普通と感じる方は要注意


日本人の平均的な塩分摂取量は16~12gと言われています。 実はこの値は、血圧が高い方には危険領域なのです。 外食産業で出される食事は、全員においしいと言わせなくてはなりません。 そのため味付けは濃い方にあわせて調整されています。 白米などで薄めれば薄味の人でも食べられますが、濃い味に慣れた人には薄味は「味が無い=まずい」と感じてしまうからです。 ですから既に血圧(上の血圧が135mmHg以上か下の血圧が85mmHg以上)が高い方で、外食で出される食事や、コンビニの弁当・お惣菜などの味が、普通と感じられる方は既に、塩味に対する感覚がかなり鈍感になっている方なのです。


塩分を取り過ぎの人は浮腫(むくみ)んでいて、その分体重が増えています


塩が多い人は、体液量が多くなり、皮膚の下や体のあちこちに過剰な水分が蓄積して、体重が重くなります。 ほとんどの高血圧の患者さんは入院して、塩分一日6gの病院食になると、2日で体重が2-3kg減少して同時に血圧も正常になり、薬を飲まなくてよいようになったりします。 ひどい人ですと、10Kgぐらい減少する人もいます。 しかし、また元の食生活に戻ると、すぐに体重が戻り血圧も再上昇します。 つまり塩分の制限をしっかりすれば、むくみがとれて体重が減少し、血圧は下がります。 逆に考えれば、血圧を下げるためにに塩分制限を適切に行っている方は、すぐに体重が2-3kg減少し、夜間にトイレへ行く回数もぐっと減る事でしょう。 またそうなっていなければ塩分制限が十分でないとも考えられます。

麻痺した味覚(塩味)は必ず戻ります


日常生活で他人に「味覚が麻痺している」と言えば、普通は人間関係がぎくしゃくしてしまいます。 味覚はやはり個人で異なりますし、そのご家庭の味というのもあります。 ですのでその一言を言われれば、皆さん普通はカチンとくることになります。 ただ、人間の感覚は刺激の強い物に対してすぐに慣れる傾向が有ります。 例えば「辛味」や「塩味」の刺激が来たら、その次はもう少し強い刺激が来なければ「辛味」や「塩味」が来たとは感じなくなります。 そして次第に強い刺激を求め、気がつけばかなりかなり辛い食事や塩辛い食事になっている。 これは「慣れ」という現象ですので、しばらく中断すると、元の少ない塩分の量で十分な塩味を感じる事が出来る様になります。 多くの患者さんを観察していると、その期間に大体2~4週間は必要のような気がします。 
適量の塩分は、味覚のそのほかの要素「甘味」等を増強する作用があると言われています。 しかし過度な塩分は、「甘味」「酸味」「苦味」「うまみ」等の本来敏感な他の味覚を塗りつぶしてしまう作用を持っています。 急に強い塩分制限をすれば、味覚全体が急になくなって、「味がなくなった」と感じてしまう訳です。 普通はそこで「これは塩分制限のし過ぎだ」と自己判断されて、塩を入れてしまう。 そうして適切な塩分制限が出来ずに終わってしまうのです。 しかし、だまされたと思って塩を思い切ってカットしつづければ、2-4週間で必ず他の味覚が回復してきて、適切な塩分量でも、おいしく食事が出来る様になります。

どの程度の塩分制限が適当か?


一般的に塩分は普通の一日に食べる食材・材料の中に6g程度はいっていると言われています。 下味や味付に全く塩分・醤油・味噌をつかわない状況で6gと考えても良いでしょう、病院で行う一日6gの減塩食は確かに効果は有りますが、ご家庭で実行するのはかなり難しいでしょう。 一般的に男性10g・女性8g以下が妥当だと言われています。 ちなみにみそ汁いっぱい2g程度です。醤油は15%ぐらいが塩分です。 小皿に醤油を入れると通常5cc程度になりますので、小皿一杯の醤油を使い切って、1g弱になります。 そのため味付けに醤油をつけず、胡椒や酢などで味を整えてゆくのが良いのかもしれません。
http://www.eiyoukeisan.com/calorie/nut_list/salt.html
いずれにせよ、自分で食事を作られる方でないと減塩は難しいでしょうし、一緒に食事をされる方の協力も不可欠です。

薬は悪者ではないです


確かに薬を飲むのは面倒ですし、病院に通うのも大変です。 そして何より薬代は馬鹿になりません。 しかし、上記のような塩分制限をする煩雑さ比べたらむしろ簡便かもしれません。 20年前の血圧の薬は一日3回内服する必要がありましたが、最近の薬は一日一回ですみますし、以前だと、薬物が消失するスピードが早く、中断すると前より状況が悪化するリバウンド現象が怖かったですが、作用時間の長い最近の薬はリバウンドがおこりにくいです。 ただ内服をやめてしまうと血圧を下げるメリットがその間失われる訳ですが・・・。 それと最近の薬は、内服すればやはり寿命も長くなりますし、血圧を下げるという効果だけでなく、臓器の老化を押さえる作用がある事が知られていて、塩分制限で血圧を下げるだけよりもより良い効果が期待できるものがあります。 
しかし塩分量を注意するだけで、ほとんどの方の血圧は良くなります。 まずはきちんと塩分制限をしてみて、それで下がるならば良いでしょうし、それでコントロールできない方はやはり、薬を飲んで血圧をきちんと下げた方が、寿命が長くなるのは確かです。


三好クリニック(内科)
〜青山・表参道〜