患者さんはなぜコレステロールを下げたくないと思うのか−1

コレステロールの高い患者さんとお話ししていて感じるのは、一部の患者さんの中に強く治療に抵抗される患者さんがおられることです。  そういう方々のなぜ治療をされたくないかという理由を分類してみましょう。

1、 今、特に不自由していないから


おそらく、コレステロールが高いといけないことがわかっていても、今なにも体調が悪くないので、治療をされたくないという方が圧倒的に多いのではないでしょうか?  これは医者の独断で要約すると、「将来のいつ頃に、どのような病気になって、どのぐらい不自由されるのか」ということを患者さんがきちんと想像できないのかなと思われます。  
例えば、「将来心筋梗塞や脳梗塞で死ぬかもしれない」というような、漠然としたイメージではなく、「50歳で脳梗塞になり半身が動かなくなる。 左足が全く動かなくなりツッパリ、左手も動かなくなる。  杖をついてゆっくりと動ける程度で、階段の昇降は一人ではできなくなる。 言葉も、片言で、「ウー」とか「アー」としか言えなくなり、トイレにも一人で行けず、紙おむつが必要になる。 今まで勤めていた会社をやめなくてはならなくなり収入が激減、住宅ローンも10年残っていて、住み慣れた家を処分して、出ていかなくてはならなくなり・・・。 その状態が20年30年続くとしたらどうでしょうか?」 といった現実的なイメージを持てるかどうかも、治療をきちんと受ける動機になります。  実際にそういった患者さんが周囲におられたり、身内にいらっしゃると、よりリアルに想像出来るのでしょうね。 今はなにも不自由されておられないかもしれませんが、周りの方々より明らかに早く、脳梗塞や心筋梗塞で不自由な生活を強いられることになります。 10年20年後の自分のために、ぜひコレステロールは適正な値にコントロールしたほうがよろしいでしょう。

2、自然のままでいいじゃないか


薬のような人工物を取るのは自然じゃないし、自然じゃないことは体に良くないだろうと思っておられる方多いのではないでしょうか? ただそういう方々の多くは根本的な事を見落としています。 それは食事です。 先進国での人間の生活は、人間以外の野生の動物と比べると大きく逸脱しています。 特に食事は異常で不自然です。 カロリーの高いもの、砂糖や卵、肉などを、何不自由なく食べて暮らせて、そして、下手をしたらほとんど外出することもなく生活することができるような環境。 これは野生ではあり得ない環境です。 自然な環境で生存している野生動物の悪玉コレステロールの値は 35-70 mg/dlと言います。 これは人間の赤ん坊の悪玉コレステロール値と同じぐらいです。 そしてこれは我々人間の悪玉コレステロールの目標値 140mg/dl以下よりかなり極端に低い値です。 もし本気で自然を追求するのでしたら、まずは食生活を見直べきでしょう。  だた本当に、35-70 mg/dlぐらいの値の患者さんがいらしたら、ほとんどの医者は「ちゃんと食事してますか? 何か病気なんじゃないですか?」と心配になってしまうぐらいの低い値です。 それぐらい野生の動物は過酷な生活をしているわけで、そこまでする必要はないのではないかなと思います。
「自然なほうが良い」と考えておられる方の多くは、自分なりの現状が「自然」で、その自然を変えたくないということなのではないかなと思われます。  薬のように今まで飲んだことがないものを飲みたくないという気持ちはわかりますが、皆さんが日常食べられている食事もそう大した変わりはないのではないかなと、私は個人的におもいます。 普通にみなさんが口にされている食品には、合成着色料・合成甘味料、いろいろなものが入っています。にわとりの卵ですら、黄身を鮮やかにするために親鳥の飼料に色素を加えている時代ですから・・・。 それなら安全性をしっかり検査された薬を内服するのもあまり変わらないのでは無いかなと思ったりします。

3、もうあまり生きることに執着していない


ご高齢の患者さんや、親しい人と死別してしまっているような患者さんの中には、もうあまり生きることに執着しておられない方もいらっしゃいます。 そういう患者さんのなかには、お薬を飲んでまで長く生きたくないと思っておられる患者さんもおられます。 

4、飲むと負けたような気になる。 病院につながれているようで嫌


この気持ちは解りますね。 そういう患者さんには、生活習慣の改善をしていただく事で対応する事があります。 しかし、無理をしても長続きしませんので、長く続ける事が出来る習慣をおすすめしています。 遺伝的に、体質的に高くなっておられる方もおられて、生活習慣だけではコントロール出来ない患者さんもいらっしゃいます。 その場合やはりお薬の内服をお勧めします。 しかしそういった患者さんの中でも、なかなか説明しても薬を飲む事を嫌がられる患者さんもいらっしゃいます。 そういう方々にはやはり薬を飲まないと若死する病気だとご自身の病気を理解していただく必要があります。 薬を飲まないと周囲の方より早く死ぬのだということを考えると、薬を飲んだほうが勝ちのような気がします。

5、実際に飲むと、調子が悪くなるので飲まない


コレステロールの薬の副作用として、肝機能障害と横紋筋融解症といって、筋肉がダメージを受ける事があります。 ただし、こういった副作用は最近の薬では珍しくなりつつあります。 特に治療薬の使用可能な上限ギリギリの量を使っている場合に見られやすく、そのような量の治療薬は、一般的な生活習慣病の患者さんではほとんど使いません。 時々患者さんの中には、「内服中に筋肉が痛くなったから飲むのをやめました。」 とおっしゃる方もいらっしゃいますが、よくお話を聞くと、前日にゴルフをしたとか、子供の運動会にでたとか、慣れない畑仕事をしたとか、「それは普通の筋肉痛なんじゃないかな・・・。」と思うようなことでやめてしまわれて、その後どんなに説得しても飲まないとおっしゃられる方もいらっしゃいます。 筋肉の副作用、横紋筋融解症はとても有名ではありますが、最近のお薬では少ない薬の量で良いコントロールを得られるので、ほとんど見られません。 やはりきちんと、主治医に相談して、薬の副作用かどうか採血を行ってからやめられた方が良いでしょう。 副作用かどうかあやふやな状態でやめてしまうと、もう一度お薬を始めるときもきっと恐ろしくなるでしょうし、やはり冷静にきちんと対応していた方が患者さんにとってよろしいかと思います。
そういった派手な副作用以外にも、怠くなる、やる気がなくなる、鬱の症状が強くなる、下痢になる、といった理由でお薬が飲めない患者さんもおられます。 その場合、コレステロールが高い事によるリスクを承知の上でお薬を中止する事もあります。 また薬の系統を変えるとそういった副作用が見られないこともありますので、きちんと主治医に相談されるのが良いでしょう。 時々患者さんの中で、主治医に気をつかって、薬をもらうけど、飲まずに捨てていたりする患者さんもいらっしゃるようです。 それはお金の無駄でもありますので、きちんと相談されることをお勧めします。 しかし、医者の中には、「だるいぐらいなんだ! 命のほうが大事だろう!」って怒り出したり医者もいますね・・。 そんな時はちょっとお医者さん変えてみたりする方が良いかもしれません。 お薬を飲んでもらうのは命令ではないです。 時には寿命が短くなることよりも副作用のほうが辛いという場合もありますので、そこのところをきちんと医者から説明をうけて、理解した上でお薬をやめるという選択肢もあります。

6、なんとか食事療法だけでやりたい


コレステロールの多い食生活や、食事全体の量を見直す事はとても重要です。 しかし、一時コレステロールを下げるために「それじゃあ続けられないんじゃないかな・・・」と思う様な極端な食事制限をされる方が時々おられます。 確かに一回は目標を達成出来ても、 それが続かないようならあまり意味が無いです。 また、採血の直前だけ、データーが少しでもよくなるようにと油分を取らないでいらっしゃったりする方もおられます。  コレステロール値は学校の試験の採点ではないので、今の患者さんの現状を知ることが重要です。 無理ない範囲での生活習慣の変化でコレステロール値が下がってくれるようなら、お薬は飲まなくても良いでしょうが、そのままの生活を一生続ける事が我慢できないのであれば、薬を飲んだほうがより健全なのではないかなと思います。

7、コレステロールは体に必要なものなんでしょう


前回のコレステロールの役割でも話した様に、コレステロールは体に必要です。 なので「どんどん摂取して良いんですよね」という風に考えておられる方もおられます。 しかし、ほとんどの日本人にとって、コレステロールは不要なほど十分すぎるほどあるというのが現状です。 野生動物の悪玉コレステロールが35-70 mg/dlであっても、十分健康に生活している訳で、それだけあれば本当は十分、140mg/dl以上あるのは多すぎです。 どんな良薬も量が多すぎれば毒になります。 適切なコレステロール量を維持する事が大事なのです。

続きはまた次回
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