心臓に雑音が有ると言われた・・・。

開業してから2ヶ月が経過して、少しずつですが、患者さんが増えてこられていてとてもありがたく思っております。 といってもまだだいぶ空いていますので、いらっしゃる患者さんに取ってはとてもゆったりしていてよいかもしれません。 
最近、何名か立て続けに「心臓に雑音が有ると言われていて、時々大学病院で検査を受けているけれど、最近ご無沙汰していて」という方が、来院されました。 たしかに、慶應で外来をやっている時には、そういった患者さんをよく拝見したものでした。 心臓の弁に異常がある、あるいは心臓の壁に穴が開いていて、血液の流れが普通の方と少し違う、 しかし手術をする程では無いという方は結構おられます。 そういった方は、私も大学病院にいる時は一年に一回、定期的に心臓の超音波検査(エコー検査)を行って、経過を追うというという事をしていました。 しかし大学病院の非常に混んだ外来は通院が大変で、ついついおっくうになって、予約が消滅してという方も多かったのではないでしょうか?
三好クリニックの心機能検査室の様子
そういった場合医者の立場から言うと、「別の病院に行かれたかもしれないし、こちらから連絡すると押し売りみたいでいやがられるんじゃないか・・」と言った遠慮も有って、あまり病院側から連絡を取る事は無いこともあって、ついついうやむやになってしまう訳です。 また大学病院だとエコー検査の日程と、医師の面談の日程が別々に有りますから・・・。 2回も行くの結構面倒ですよね。
個人のクリニックで、自分で心臓の超音波検査を行うと、その場で診断できますし、状況をお話しできるので、患者さんへの負担も少なく、検査をする方も罪悪感が無くて良いです。
そういった、定期的に心臓超音波検査が必要な患者さんの中で、今日は最も数が多いと思われる、僧帽弁閉鎖不全症という病気に付いて少し解説してみます。


心雑音を指摘されて、検査をしたら僧帽弁閉鎖不全症と言われた


僧帽弁は左心房と左心室の間に存在する弁で、左心室が収縮して、上の血圧(収縮期血圧)をたたき出す際に閉じて、左心房に圧力が逃げない様にぐっと支えています。主に2枚の弁で形成されていますが、実際には隙間を塞ぐ小さな2枚を含めた計四枚の直径4cmぐらいの楕円形の弁です。 20年程前には、心臓超音波検査と言っても精度が低く、心臓の収縮は見えるけれど、血液の流れを見るパルスドップラー検査の精度が低く、コマ送りで再生しているような画像で判断していましたが、最近の心臓超音波検査は本当によく見えて、今までは見落とされて来たような小さな逆流でも簡単に発見できます。 教科書等を見ると100人に一人とか50人に一人とか記載されている物が多いですが、慶應でエコーをやっていた経験から思い起こすに、そうですね小さな逆流ならば5人に一人ぐらいは有る様に思います。 教科書の記載というのは常に10年程古い医学の常識を記載していますからね。
この僧帽弁の逆流ですが、重症になると、左心室の収縮で全身に運ばれるはずの血液のが、再び左心房に戻ってしまうので、左心房と左心室の間で無駄に血液が行き来することになり、長期間逆流が続いたり、大量の逆流が有ったりすると、心不全の症状が出現します。 心不全の症状とは、具体的には、労作時に息が苦しくなったり、横になって寝ると息が苦しくなると言った症状が出たり、血液の混じった痰がでたり、軽症だと、咳が出ると言った症状であることもあります。 心不全症状が出て来たり、左心室がバテてくるような状況になると手術による弁の形成や弁全体を機械弁に置き換えてしまうような治療を行います。しかし安心して下さい。そういう患者さんはむしろ例外で、ほとんどは一生治療が必要が無いことが多いです。 
ではほとんどの手術が必要にならない患者さんが手放しで良いかというといくつかの注意点が有ります

1、血圧を上げない: 

僧帽弁は収縮期の血圧を支えている弁です。なので血圧が上がれば逆流量も増えます。そのため血圧が上がるような食事例えば塩分を取りすぎるとか、体重を増やしすぎるようなカロリーの過剰な摂取等には注意が必要です。 

2、安心してください、小さな逆流が将来の大きな逆流の前兆では有りません:

通常は、小さな逆流が、徐々に進行して逆流量が多くなるという事は有りません。 ただし、弁の疲労や老化現象で僧帽弁が壊れる事が有ります。そうすると急激な心不全症状が生じ、どのような方でも気づかれて病院へ行かれると思います。 つまり、ほとんどの軽症の僧帽弁逆流症の患者さんは進行するというよりは、一生弁の状況は変わらないと考えていても良いと思われます。 あまり悲観的に考えない方が良いでしょう。

3、抗生物質の予防投与: 

最も重要なのは、逆流のある僧帽弁に雑菌が感染して弁が壊れてしまう事が問題になります(感染性心内膜炎)。 最も多い原因は、抜歯や歯の治療等の血が出るような治療を行う場合の対応が問題になります。 通常そのような治療を行う場合、手術の当日朝から雑菌を殺す抗生物質の内服を行う事が重要です。 2日間投与する事が多いと思います。 手術の1時間前に内服するのが良いと言われていますが、なかなか手術の時間も解らない事も多いので、1時間より前から3時間までの間に抗生物質を予防的に内服されるのが良いでしょう。 このような予防投与をしていても、感染性心内膜炎になる事もあります。 

4、38度を越える発熱が一週間近く継続した場合は受診を:

そこでもう一つ注意する事は、抗生物質等を内服しても38度を越える発熱が1週間近く継続する場合、やはり循環器内科を受診された方がよろしいと思います。 血液の中に含まれる雑菌の培養検査・心臓の超音波検査・採血による全身状態のチェックを行い、感染性心内膜炎と診断されたら、入院して抗生物質の点滴治療が命を守るために必要となります。 またバファリン等や解熱剤の入った風邪薬を飲んでおられる場合、発熱していなくても実際には病気が進行している事が有ります。 そういう場合、薬が切れる頃になりますと、悪寒が出て、熱が8度を越えると思います。 そのような状況が1週間近く続くのは、通常の感冒やインフルエンザとは違うと考えた方が良いでしょう。

5、定期的な検査を:

そして、このような弁の状況が、症状が無くても徐々におこっている事も有りますので、一年に一回程度で良いので定期的な心臓超音波検査を受けられる事をお勧めします。 油断は禁物なのです。



三好クリニック(内科)
〜青山・表参道〜