QT延長症候群について

皆さんあまりなじみが無いかも知れませんが、QT延長症候群(キューティーえんちょうしょうこうぐん)、という病気が有ります。 このQTというのは心電図の波形の場所を示す文字です。 その間隔が普通の方より長くなるという病気です。 それだけではちょっと解りにくいですよね。
元々この心電図上の間隔は心室という心臓のメインのポンプの電気的な安定性を示しています。 この間隔は短すぎても、長過ぎても電気的に不安定で、心室細動という心臓が突然痙攣して動かなくなるという病気をおこす事が有ります。 失神して意識を失って病気に気づいたり、健康診断で指摘されて気づいたり、あるいは、元々近親の方が若くして突然なくなられて、発見されたりする事のある病気です。
この心室細動は、そのまま自然に停止して元の心拍に戻る方も多いですが、戻らずに死亡される方もおられる怖い病気の一つです。 元々心臓の筋肉の収縮のタイミングを取っているのは、細胞の上に存在するイオンチャネルと言う蛋白なのですが。 この蛋白の構造を決めている遺伝子マップ上に異常がある事でQTが長くなる事が多く、最近では遺伝子の配列を調べられてその病気の原因を確認する事が多くなりました。 残念な事にその異常な遺伝子を修正する事は今の医学技術では難しいのですが、それを知る事でどのような時に心室細動をおこしやすいか、あるいは投薬の方法等をある程度知る事が出来るのです。 もちろん調べてみて「知らなければ良かった」と思う方もおられる訳で、すべての人が絶対にやらなくてはならない検査では有りません。 遺伝子の情報がなくとも、心電図のエキスパートであればある程度波形のパターンや、夜間・運動時の心電図を見るとそのリスクが分かる事が有ります。 
基本的に内服薬での治療になりますが、薬剤が効かなかったり、心室細動を起こしている時間が長い人ではやはり植え込み型除細動器(ICD)を挿入する事をお勧めします。 運動して心電図をする検査を行ったり、薬を注射して心臓に負担をかけた状態で心電図の変化を見て、リスクを評価する場合があります。 海外では、交感神経と行って首から胸郭の付け根あたりに存在する、神経細胞の固まり(交感神経節)を外科的に焼き切ってしまう事で、不整脈の発作が少なくなるケースもありそのような治療が行われる場合も有る様ですが、日本では、なかなかそのような治療を行う医者も少ないですし、学会等であまり見かける事は有りません。

この病気は軽症だとほとんど心電図に影響が出ない事もあるのですが、そういった方の中にも、一見無関係に見える内服薬等の投与で急激にQTが延長して心室細動をおこす患者さんもおられるので注意が必要になります。 有名な物には、胃酸を押さえる胃薬や、比較的強い作用を持つ抗うつ剤、また抗アレルギー薬(花粉症の薬としても出します)、抗生物質の中のある種類(エリスロマイシン)。 長期的な下痢等が続いて血清のK(カリウム)値が減少しているような方。 もちろん不整脈の薬にはそういった副作用が有ります。 不整脈の薬の場合はもちろん定期的に心電図を取りますので問題有りませんが、その他はあまり皆さん心電図を取ったりする事は有りませんね。 心電図を取ればすぐに分かるのですが、ほとんどの方は問題が無いので、便宜的にあまり取らないのでしょう。 でもこのような薬剤を飲んだ後に、失神したり、冷汗を伴って意識が遠のくような感じがある場合、すぐにお医者さんに相談した方が良いでしょう。 特に近親者に若いうちに突然なくなった方のおられる場合は、普通の時には問題無くても、薬や体調によってQTが異常に伸びて心室細動をおこすような場合があります。
ただ安心して頂きたいのは、そういう薬剤を飲んだ時だけQT延長が明らかになる方の場合、分かってしまえばそういう薬剤を飲まないという事を注意すれば、普通の方と同じような生活に戻れる事が多いです。

三好クリニック(内科)
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