心エコーの左手法

心臓の超音波検査、心エコーという検査があります。 私が研修医になった1990年代には、洗濯機3台分ぐらいの大きさがあって、その中に電子器機が詰め込まれてしました。 それを患者さんのところまで運んで行って、心臓の動きを観察するのですが、VHSのビデオテープに記録していました。 今ではそれより性能の良い機械が少し大きめのノートパソコンぐらいの大きさになっていて、記録もメモリー上に電子的に記録されていますから、本当にすごいものです。 確かその頃のパソコンはハードディスクが入っていることは珍しく、入っていても 40メガバイトぐらい。 今ならRAMでもそんな小さいメモリーないですね。

私の研修を受けた慶応大学は左手法といって、左手でエコーの先端を患者さんに当てて、右手で機械の操作をするという方法を取ってます。 後になって知ったのですが、この方法は実は少数派らしいです。 よその病院から来た看護師はちょっとギョッとするみたいです。

患者さんにとって、右手でも左手でもあんまり変わり無いじゃ無いかと思うでしょう? 実は患者さんとって大きな違いがあります。 左手でとると、患者さんと検査をする人は向かい合って検査を受けることができます。 なので検査の映像を見ながら検査をすることになり、検査中に心臓の様子を説明することができます。 右手法だと、患者さんは検査している医師の顔を見れず、なんだか後でゴソゴソやっているなという風になります。 あと、右手法だと、患者さんの背中から右手を回し、患者さんを脇の下に抱えるようにして検査します。 なのでちょっと密着感があります。 冬ならまあ暖かい程度で良いでしょうが、夏だとちょっと、暑苦しいですね。 あと、とても体の大っきなかただとちょっと手の長さが足りなくて、心臓まで手が届かないかも・・(絵でも書ければよいのですが、下手くそなので失礼します)。

エコー検査は超音波を発射してその反射してきた超音波を拾い上げて画像にする検査です。 魚群探知機や潜水艦のソナーと同じ原理です。なので超音波が伝わりにくい肺とか、あるいは超音波がその裏側に到達しない骨とかシリコンが苦手です。 心臓は肺に囲まれてしますし、肋骨に囲まれていますので、両方ともとても苦手なのです。 ちゃんと心臓を観察するためには、患者さんの左側を下にして、顔を横向きに横になって寝てもらう必要があります。 左胸を下にすると血液の重みで心臓が少し左側に移動し、胸骨という胸の真ん中にある骨から少し左側に顔を出してくれて、それで心臓が観察できるようになります。 ほとんとの方は心臓が左にありますので、右手で検査をすると、どうしても患者さんにお尻を向けなくてはなりませんし(ちょっと恥ずかしい)、患者さんの左手が邪魔になってうまく検査出来ないので、どうしても背中から抱え込む姿勢に落ち着くわけなのです。

検査技師がとても美人で、密着する右手方の方が良いよとおっしゃる患者さんもいらっしゃるかもしれませんが・・・。 白髪混じりの中年のおっさんの私としては、やっぱり対面しながら、病状を眼の前で説明しながら検査をできる左手法を覚えてよかったなと思っています。 ただどうしても左手は利き腕じゃないので、力が弱かったりして、エコーの先端がきちんと患者さんの身体と密着出来ないため、綺麗な像が取れないという欠点もあります。 本当かどうかわかりませんが、慶応のエコー検査の技師さんは、左手の筋肉トレーニングをしていたとお聞きしてます・・。 なので本当に綺麗な心臓の画像を記録できる技師さんのエコー検査は痛いです。 ぐいぐい押し当てられますので。

息を大きく吸い込むと肺が膨らんで心臓に肺が覆いかぶさってしまってよく見えなくなってしまうので、呼吸を吐いたところで止めてもらったりします。 研修医の頃よく、患者さんに息を止めてもらって、検査に寝中しすぎて、呼吸を普通に戻して良いことを指示し忘れて、苦しい思いをさせたりしたこともありました。  「少し吐いた状態で、細かく小さく息をしてください。 大きく息を吸い込まない!」なんて、ちょっと普通じゃ理解できそうに無い指示を出しているドクターも見受けますが、そんなの無理ですから・・・、一度自分でやってみたら良いと思います。

三好クリニックは大学病院ではないので、画像のデータをみんなで見直して検査の精度を上げるということをしていないので、患者さんにはあまり息止めしてもらってはいませんが、どうしてもよく見えない時だけ、呼吸を止めてもらうことをお願いしています。 それは患者さんとまさに「呼吸を合わせる」というやつで・・、実は結構難しいのです。 息を止めている間に短時間に綺麗に画像を出さなくてはなりませんし、呼吸を止めるタイミングが狂うと、超音波の先端を微妙に移動させないといけません。 あとせっかくよく心臓が見える位置で息を止めてもらっても、息を止めた瞬間に横隔膜の緊張がとけて、心臓が少し元の位置に戻ってしまい、記録しようとすると肺に隠れて見えなくなるなんてことがあります。 慶応にいる頃に同僚が、「息止めてっていったら止めてください」、なんて喧嘩腰になっている先生も時々拝見しましたが・・。 口で息を止めてお腹の緊張を解いてしまうと、少し前の位置に戻ってしまうので、よく見えるようになったタイミングを一度やり過ごしてから呼吸を止めてもらう必要がありますね。 患者さんが悪いのじゃなく、指示を出す医者が悪いのだと思います。

検査自体は上半身をあけてもらいますので、できたらワンピースとかじゃなく、Tシャツとかで来てもらえると助かります。 検査の時間は10分〜15分ほどかかりますが、初回の患者さんは説明の時間も必要なので30分ほど時間を見てもらったほうが良いでしょう。

最近、検診で心雑音を指摘されて、私のクリニックにいらっしゃる患者さんが意外に多いので、ちょっとエコー検査について触れてみました。
三好クリニック(内科)
〜青山・表参道〜