人工弁:続き

異常のある弁を交換すると、同じ心臓の収縮でも効率よく血液を送り出す事が出来る様になり、心臓全体としてのポンプ機能は回復してきます。 しかし、残念ながら、自然の弁と比べるとやはりあまり機能は良くありません。  人工弁の機能が悪いというわけでは無く、ご自身の弁の機能が良すぎると評価した方がよいでしょうか・・・。 柔軟かつ強固、そして自己修復、そして感染に対する抵抗性・・・、とても人工物に再現出来る物では無い様です。 なのでたとえ少し噛み合わせが悪かったり、動きが悪かったりしても、人工弁への交換は出来るだけしない方が良いわけです。
また、長年弁の異常によって余分な負担を強いられてきた心臓の筋肉は、年齢とともに弱り、収縮機能が低下してきます。 手術前の心臓の筋肉の動きがあまりにも悪いと、手術による負担、特に手術のために一度止めた心臓を再度収縮させるときに心臓が動かない事があります。 ですので経過を見ている医者は、心臓の筋肉の状況を注意深く経過観察してゆく必要があるわけです。 早すぎず、遅すぎず、手術する事が重要で、そのタイミングを見計らうのが循環器医の腕と言う事になります。
人工弁を入れた後に、この心臓の機能が回復してくるスピードは、どちらかというと、弁が細くなる(狭窄:きょうさく)患者さんの方が、弁が逆流する(閉鎖不全:へいさふぜん)の患者さんよりも早い傾向があります。 なので閉鎖不全の患者様では、人工弁手術後に症状に劇的な改善は見られず、どちらかと言えば、それ以上悪くしない様に手術したといった印象をもたれる場合が多いです。 勿論最近の手術方法は以前よりだいぶ変わりましたので、閉鎖不全症の患者さんでも手術後に症状が改善してこられる患者さんも多い印象もあります。 
弁を交換する際に、心臓を一旦止める必要があります。 心臓が動かない様にするための人工的な液体を心臓の血管(冠動脈)に注入する事で心臓を止めるわけですが、この停止させておく事が心臓の筋肉には少し負担がかかります。 ですので心拍再開させた後も以前の心臓の収縮とは異なり、患者さんに伺うと、手術後半年ぐらいは本調子でないとおっしゃる事が多い様に思います。

慢性的な経過観察について

慢性的な経過観察について



ワーファリンの内服とそのコントロール


機械弁を入れられた方は、1ヶ月から2ヶ月に一回、外来への通院が必要になります。 ワーファリンといって、血液がさらさらになる薬を内服していただき、機械弁に血液が付着して弁が破壊されない様にする必要があります。 ワーファリンの効果は、食事や体調などで大きく変化するため、常に量を調節してゆく必要があります。  定期的な採血とその量の調整をしてゆく必要が一生あるわけです。 また、ワーファリンは、催奇形性があり、若い女性で子供を作られる事を考えておられる方には使用で来ません。 その場合はワーファリンを使用しないでも血栓の付着の心配のない生体弁を使用する必要があります。

感染症との戦い


弁を修復して人工物をいれると、その周辺は感染にとても弱くなります。 人工物には血液の流れが無いため、白血球等の免疫細胞が行き届かなくなるという事がその原因の一つなのかもしれません。 そのため、常にばい菌感染が無いかどうか、そしてそのようなばい菌感染を起こす様な事態にならないか、注意していく必要があります。  特に血が出る様な手術の後にばい菌が血液の中に入り、巡り巡って人工弁に取り付いてしまうと治療が困難になります。 最も一般的なのは、歯の治療後でしょうか。 抜歯やインプラント、歯石除去や詰め物などもそれに当たります。 現実に患者さんとお話ししていて、「じゃあ切り傷は」とか、「痔があるんですが」とか言う事もあったりするんですが、結構そういう日常に起こる傷等については、案外大丈夫であったりする事が多い気がします(これは自信ありません。 )。  とにかくそういった事の後に弁に雑菌が付くと、抗生物質を使っても38度を越える熱が1週間以上持続したり、呼吸が苦しくなったり、血尿が出たり、手や体に1~2mm程度の赤い痛みのある斑点が出来たりといった症状が出現する事があります。 やはり人工弁を入れておられる方の1週間以上の体調不良というのは、直ぐに病院に行って診てもらう必要があると思ってよいでしょう。 採血をして、血液の中に雑菌が入り込んでいないかどうか? ばい菌感染の兆候が無いかどうかを判断します。 そして、直ぐに心臓超音波検査(エコー検査)を行い、弁の機能異常がないか、弁に菌の塊がくっついていないかを判断する必要があります。

溶血性貧血


実はあまり問題にされる事は無いのですが、機械弁や弁形成術の後に、血液の流れが乱れてそれがもとで赤血球が破壊され、溶血による貧血を起こす事があります。  あまり溶血が強いと、再手術になる事もある様ですが、ほとんどはなんとか、鉄材や増血剤を飲んでいただいて対応していく事が多いです。 血液の中のヘモグロビンという値が低下し、同時に赤血球が破壊されたときに元々細胞の中にあったLDHという酵素が血液中に漏れだすためにLDHが高くなります。  私が拝見している限り、少し入れ替えた弁に逆流があったりする方に多い気がします。 血圧の調整等で逆流量を減らしたり、利尿剤等で心臓の大きさを調整すると良くなったりする場合もある様ですが、ほとんど手探りで、なかなか治療は難しい場合が多いです。

機械弁の機能


機械弁は時間経過とともに少しずつ弁が動きにくくなって来たり、固定が緩んで来たり、手術中や手術直後にはよくわからなかった変化が時間が経つとともに明らかになる事が有ります。 ですので年に1回から2回の心臓超音波検査を行い、弁の状況はきちんと把握しておいた方がよろしいでしょう。 また最近では機械弁は血清のコレステロール値が高いと、破壊が速く進むという報告も有ります。 コレステロールのコントロールは重要な課題となります。 定期的な採血が弁を長持ちさせるには必要となります。
三好クリニック(内科)
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