後で診るほど名医

医者仲間のことわざというか、慣用句に「後で診るほど名医」と言う言葉があります。
大学病院等で回診等があると、決まって若い研修医当たりから意見を言わされて、次にスタッフ、そして講師など教育担当者が意見を述べて、最後に教授が話をすると言った具合に、後で意見を述べるドクターが、偉い先生と決まっているという意味もあります。 その心は、年配の先生が意見を言ってしまうと、その後若い先生が自由な意見を述べる機会が失われる、あるいは、若いドクターの考える機会を奪ってしまうので教育に良くないという意味合いもあるのでしょう。

しかし本当の意味合いはおそらくちょっと違います。 病気の始まりの時期には、あまり症状が出そろっておらず、ヒントが少なく、きちんとした診断がなされない場合があります。 はじめのうちは病気なのかそうでないのかも解らないといった曖昧な症状で来院されるわけです。 その時点できちんと病気の本質が解り、きちんとした診断まで行き着ければ良いのですが、そうでないと「少し(この薬で)様子を見てみましょうか」という事になる事があります。 そうして一週間位経過してくると、勝手に治ってくれることもあります。 また逆に、病状が進行して、症状が出そろって、誰がみても病気だとわかる状態になったりします。 その段階になって患者さんが不信に思って、医者を変えた結果、当院を受診してくださったりする事があります。 その患者さんの以前の状態を知らないと、「なぜこの病気、もっと早く診断が出来なかったんだろうか? こんなにはっきりした症状があるのに」と思ってしまう事があります。 そういったときに、この「後で診るほど名医」と言う言葉を思い出します。 もう少し解りやすく言えば「コロンブスの卵」のことわざと近いかもしれません。 時間が経過して、検査や症状が出揃うと、診断はそれほど難しくないことはよくあります。 ですので、後で見た医師の方が簡単に診断ができる、つまり後で診るほど名医ということになるのです。 当院に来院された後に病気が解って治療がスムーズに行ったからといって私が良い医者だという訳ではなく、時間が経過して患者さんがでもこれはおかしいと思うぐらい症状が出そろってくると、診断への手がかりが多くなり、適切な診断ができる事があるのだということなのです。 私も、「少し様子を見てみましょうか」と言うフレーズよく使います。「ちょっと様子見て何か良い事があるのか?」あるいは、「待っていて大丈夫なのか?」と不信に思われる事もあるかもしれませんが、多くの的外れな検査をするよりも、少し待って、病気かそうでないかのふるいをかける事で、より適切な人に適切な治療や検査が出来る事もあります。 そして逆に、病気の発見や治療を遅らせる事にもなる事もあります。 どちらが良いのか、本当の所は誰も解らないのでしょうね。 でも時として、病気の診断には結構時間がかかる事が有るという事はご理解いただきたいと思います。
三好クリニック(内科)
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