人の寿命

久しぶりの原稿ですね。 随分サボっていたみたいです。 医者の生活をしていると、人の生き死にを間近で見る事になります。 なので人の寿命について考える機会はとても多いです。 患者さんと寿命の話になると「80歳ぐらいまで生きられれば良い」「90までは生きたくない」と言う方が多いです。 今の日本の平均寿命が80歳前後だからでしょうか? 今自分たちのまわりにいる高齢者の年齢を見てそのようにおっしゃられるのかもしれません。 長生きすると近しい人が先に死んでしまって、孤独になってしまうからかもしれませんね。 
でも私は考えてしまうのです。もしも人間が200歳や300歳まで生きられるとしたら、皆さん同じように思うのでしょうか? 80歳になって病気で死にかけているときに、まわりの人達は90歳や100歳になっても、普通に若々しく生活していたら、悔しいんじゃないでしょうか? そうやって考え直してみると、現時点での常識で人間の寿命を考えて、80ぐらいという寿命を想像しているのだと思います。
そして良く現場で遭遇するのは、それまで「80歳ぐらいで死にたい」とおっしゃられていた患者さんが、80歳になったときに、今死にたいですかと聞くと「それは今じゃない」とおっしゃる事が多いです。 死という物は避けられない物でいつかは来る物だけど、それは今じゃないというのが患者さんの本音なのでしょうね。 ちょっと厳しい言い方をすると、未来への想像力不足なのだと思います。

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世紀の初頭に、抗生物質や感染症の治療が可能となり、人類の寿命は極端に長くなったと言われています。 こういった治療は当時大発見だったのでしょうね。 しかしその寿命が長くなったことが誰もが実感するのは、その発見のしばらくしてからになります。 実は、抗生物質の発見の後に、20世紀の後半に人類はとても重大な3つの治療薬の開発に成功しています。 高血圧治療・高コレステロール治療・そして血栓塞栓の治療です。 1970年代に入るまで、そういった治療薬は今では考えられないぐらい粗悪で、とても治療目標を達成出来ない物でした。 それに治療目標の科学的データーもなく、極めて非科学的な根拠で決められていました。その目標までコントロール出来るほどの良い薬が無かったこともその理由の一つだったでしょう。 高コレステロール治療も実用的な薬が出るのが2000年直前、抗血栓塞栓も2010年頃になってからです。 こういった治療が出来る様になって、医者の目から見ても、それ以前とそれ以後で患者さんの見た目年齢は大分若くなった気がします。 そしておそらくその結果を寿命として我々が実感するのは、おそらく40-50年後ぐらいになるのではないかと思います。 そういった治療法の恩恵は遅れてやってくるのです。 
おそらく今行われている標準的な治療が正しく5060台の患者さんに行われるようになると、ほとんどの患者さんは、癌や遺伝子の病気で無い限り100まで生きるだろうと言われています。3040年後には今の寿命の常識は全く変わっているでしょう。 しかし、医療の現場を見ていない患者さんにはなかなか実感出来ない事なのだと思います。 我々医者はその患者さんの想像力を補う形で、10年後20年後の患者さんの代弁者として、皆さんに治療のお話をしています。 是非医者の声を、未来からの自分の声だと思って耳を傾けてみて下さい。 現在みなさまと同年台の人達は80歳になっても今想像するよりずっと若々しく活動していると思います。現時点での常識で80歳で人生諦める必要は無いでしょう。 繰り返しになりますがそれには医者が勧める標準的な治療法を守っていなければ、今の医療水準の恩恵を受けることは出来ないです。 
三好クリニック(内科)
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