三好クリニック 青山・表参道

内科・循環器・高血圧・不整脈

患者から見た医者と、医者から見た医者の違い

小学生ぐらいの頃の医者のイメージは、病院のイメージだったような気がします。 皆さんはどうでしょうか? 暗い廊下、検査室で何やら電極を付けられて検査したり、採血で痛い思いをしたり・消毒液の鼻を刺激するにおい。 そして何より待合室にいる大人の人たちの神妙な面持ち、それら全体が一緒になって、病院の青白いイメージ、それが医者のイメージであった様な気がします。 何より、実際に医師と対面して話したり診察したりする時間よりも、待合室や病院への行き帰りの時間の方が長いからという理由もあったのかもしれません。 
あるいは医者に行く機会があまりなかった方も多いのではないでしょうか?  しかし、映画やドラマ、あるいはアニメーション等で、医者が主人公の映画やドラマがあったり、医者が脇役で主人公に不治の病の宣告をしたり、退院出来てよかったね的な役割で出て来たりする物もあり、そういう映像から、医者がどういう職業であるのか、子供の頃からある程度医者のイメージはある様に思います。
そういったメディアで見られる医者のイメージは、一度診ただけで、なんら迷いなく、何の検査もなく、病気の宣告を行うか、治してしまうということが多かったのではないでしょうか? メディアで作られる医者のイメージは、ストーリーの展開上ご都合主義的な理由でそうなっていることが多いと思います。  なので医者になる前の子供の頃の私は、医者とは病気を治す職業の人だと思っていました。 治すとは、つまり健康を取り戻すという意味です。

患者であったときの医者のイメージと、医者になってからの医者の現実を比較して思うのは、少し無理に簡単に申し上げると、「医者は患者の体に傷を付けるだけだ」と言う事です。  こういうと誤解があるかもしれません。 外科的な治療であっても薬を飲んだりする様な内科的な治療法であっても、体の余裕のある部分を削って、異常がある部分を埋め合わせて使うという事です。
例えば、胃がんがあったとして、医者は胃がんの癌細胞だけを取り出す事は出来ません。 癌細胞と一緒に、正常な臓器の一部を取り去り、残りの臓器の機能を犠牲にして、取り去った臓器の代わりをさせる必要があります。 例えば風邪をこじらせて感染症が悪くなってしまった場合、抗生物質を投与して、病原体の勢いを弱めますが、勢いを弱めて、自身の免疫力で病原体を完全に排除するまでの時間稼ぎをしているだけだと言えます。 つまり体が自分で治るべくして治るのを手伝っているだけだということです。  それは自身の体に余裕がなければ、病気を治療することはできないということです。
 
車輪
以前テレビで見た比喩で、なるほどなと思ったことがありますが(なのでどこかに原典があると思いますが)、紹介すると、病気を持った患者さんを車輪に例えていました。  例えば車の車輪は丸いのできちんと動くことができる。 病気になって車輪が欠けて車が動かなくなってしまったらどうするか。 小さな傷なら自分で治ろうとします。 しかし治る前に次の傷がついてしまうといけないので、車を動かすのをやめて傷が自然に治るのを待ちます。  では大きく欠けてしまったらどうします? 車輪がまわるたびに、ガタンガタンと車体が揺れて、まっすぐ走ることもままならなくなります。 その時医者ができる唯一のことは、その削れた部分を切り取るぐらい大きく車輪全体を削り出して丸くします。 そうすれば車はまた走れるようになります。  しかしそのためにみなさんの車輪は小さくなります。 それはつまり余裕がなくなる。 次に傷がつけば次には治すことができないかもしれないということです。 なので患者さんにとって大事な事は、車輪を傷つけないようにするということです。
この例えの後にもう一つ例を出しましょう。 例えば患者さんの血圧が高かったとします。 血圧が高い状態が続けば、動脈硬化が早く進行して、脳梗塞・心筋梗塞・腎不全などで死亡される時期が早まります。 なので、血圧を適正な値に下げていただくほうが長生きされます。 将来的に車輪を傷付ける可能性が下がります。  血圧が高いことを車に例えるとするならば、常にアクセル全開で走っているようなものです。  車を動かす瞬間から常にアクセルが全開になるので、発車するたびに、タイヤが高速回転して、路面をスリップし、白煙を上げて発車し、車は左右にスリップしながらドリフトし、ガードレールにぶつかりながら走行する。  車体は壊れ、タイヤはおそらくすぐにすり減ってしまうでしょう。  ほとんど全ての患者さんの血圧上昇の理由は、患者さんの生活習慣にその原因があります。 体重を減らし、摂取している塩分を減らし、規則正しい生活を行い、運動不足を解消する、それだけで患者さんの血圧は正常化します。  しかし医者を受診される患者さんのほとんどは、現在の慣れ親しんだ日常生活を犠牲にして血圧を下げることができません。できないから受診されるのでしょうか。  なので我々が医者が行う行為は、「体重減らしてくださいね」 「減塩が不十分ですよ」と注意することで患者のプライドを傷付け、そして「朝一回2錠この薬を飲んで下さい」とお願いして、患者さんの日常生活の一部に介入することで、患者さんの日常の一部を傷つけます。 そしてその傷を患者さんが納得してくだされば、アクセルは少し戻り、もう少し適切なスピードで車を運転することがで、車体や車輪の致命的な破壊を未然に防ぐことができます。

患者さんにとっての、医者のイメージと現実の医者との間には、おそらくかなり大きなギャップがあります。 患者は病気だけを取り除き、自分の体を元に戻してくれるだろうという幻想を抱き、治療の全てを医者に丸投げしようとします。 反対に医者は、患者の体を傷付けることによって、病気の症状を日常生活に差しさわりがないようにします。   このギャップを埋めるために、医者は患者さんにきちんと病気の説明を行っていくわけです。 そして患者さんにはできればご自身の体をいわたっていただければ幸いです。 医者は傷付けることしかできません。 患者さんの体を正常な状態に近ずけることができるのは、実は患者さん自身だけなのです。