動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版

最近、テレビなどでnon HDLというお話聞きませんか? 恥ずかしながら私全くテレビ見ないので、よく知らなかったのですが、何名かの患者さんから伺って、気になって少し最近の現状を調べてみました。
こういった話題は、本来もう少しきちんと医者側へも、内科学会や循環器学会で話しが有っても良いものですが、私の勉強不足なのか、今年の循環器学会でもほとんどそういった話題が無く、患者さんの治療に適応して本当に大丈夫なのか、まだ私自身迷っていますが、今年中には患者さんへの治療に順次反映させるべきだろうなと思っています。 (学会とかで、自分自身で一度話を聞いてからにしようと思っていたのですが、なぜかあまりそういう機会が無いみたいで)

LDL
コレステロールは悪玉コレステロールと言われています。 血液中に流れるコレステロールは、そのほかに善玉コレステロールといわれるHDLコレステロールと、中性脂肪をたくさん含んだ、脂肪の微粒子(カイロミクロン)に含まれるコレステロールがあり。 中性脂肪の質量のうち5分の1のコレステロールが存在すると考えられています。 non HDLとは、この悪玉コレステロールと、中性脂肪と関連したコレステロールの総量なのですね。 
ただこちらは名前としては目新しいですが、いままでも日常診療で医者は普通に計算しながらやっていた部分でした。 しかし2012年度のガイドラインと大きく異なる部分があります。 前半はnon HDLとはなにか、 後半には新しいガイドラインが今までとどう違うかを説明してみたいと思います。

なぜnon HDLなのか?



採血データーと直前の食事


患者さんの採血を食事を抜いて検査をするべきか、それとも食事を取った状態で普通に採血するべきか、医者が何を観察したいかによって異なります。循環器や腎臓を専門にする先生方はどちらかというと、普通に食事してもらった状態で採血した方が、腎機能の採血データや、心機能の採血データが安定して正確に評価できるようになります。 30年前は、糖尿病についても、空腹時血糖値で評価していたので、空腹で来てくださいとお願いしていたと思いますが、最近は一ヶ月の平均血糖値を示すHbA1cの値で判断することが多いです。 患者さんによっては診察の1-2日前だけ、プチダイエットをされてくるという患者さんもおられたので、どちらかというと、随時空腹時血糖値よりもHbA1cのほうがその患者さん本来の1ヶ月間の食生活の状況が評価できるわけです。 悪玉コレステロール(LDLコレステロール)値もあまり直前の食事に影響を受けにくい値です。 
その一方で糖尿病や脂質異常症(コレステロール)の治療をドクターは、採血時に空腹できてほしいと言うでしょう。 それは、血糖値と中性脂肪の値が直前の食事に大きく影響を受けてしまい、評価が難しくなるからなのです。 循環器内科のドクターの多くは、中性脂肪自体をそれほど重要視していないのですが、高すぎる場合、干渉してうまく測定できず、悪玉コレステロールの測定が見かけ上低く測定されてしまうという問題点があるために、当院でも中性脂肪は検査の妥当性を知るために採血することにしています。 
non HDL
コレステロールとはそういった中性脂肪が高すぎて、悪玉コレステロールの測定値が低く評価されてしまう患者さんのリスクもきちんと評価するためにあります。 動脈硬化を引き起こす新たな分子が見つかった訳ではありません。 

新しいガイドラインで何が違うのか?


ガイドライン変更への戸惑い


我々診療を実践している医師にとって、このガイドラインの変化というのは、正直苦痛でもあります。 なぜなら、今まで、「このぐらいだったら大丈夫ですよ」と患者さんにお伝えしていたのに、ある日突然、「実は新しいガイドラインだとちゃんと薬飲んだ方が良いみたいだったんですよ」と患者さんにお伝えしなくてはならなくなるわけで、それは医者側はじゃあ今まではなんだったんだということと、あと5年したらまた変わるかもしれないガイドラインを押しつけて良いのかという点を考慮する必要があります。 患者さんにしても、今まで良いって言われたのに、なぜ今になってという戸惑いがありますし、人によっては、もう先行き短いのだからあまり処方をいじられたくないという気分になることもあるでしょう。 
ただ、時代が変われば、薬が新しくなり、新しい測定方法ができ、それからの経験やデータをまた治療法に還元するというのは、医療が科学であることを考えると大事なことなのだとも思います。 我々臨床医は、患者さんに最新のベストの治療を届ける義務が有るわけで、そのためにも、きちんとガイドラインに沿った治療を説明し、説得し、同意が得られれば治療介入するという手順を取る必要があります。 
 

大きく変わった点1


では具体的に何が違うかというと、一つは今まで重点を置かれていた、悪玉コレステロールが善玉コレステロールの2倍以下あるいは1.5倍以下という善玉・悪玉比という考え方が陰を潜め、比率ではなく、悪玉コレステロールの値だけ、あるいは善玉コレステロール以外のコレステロールを評価しようという方向になっています。 つまり、今まで悪玉コレステロールがとても高いけれども、善玉コレステロールがとても高くて治療を行わなくても良いだろうと言われていた患者さんが、今回のガイドラインでは治療介入した方が良いだろうということに変わります。 私の外来の患者さんでも何名か該当すると思います。 

大きく変わった点2


大きな動脈硬化による病状の悪化のリスクを、きちんと定量的に評価して、悪くなりそうな人とそうで無い人に対する、コレステロール治療の目標値を変えています。 つまり危なそうな人にはきちんと厳格に治療し、そうで無い人へはそれなりに治療するということです。 その評価方法は年齢や性別、喫煙、血圧、糖尿病や耐糖能異常などを元に計算する必要があり、 慶應大学の外来診療ではちょっと計算する暇無かったと思います。 当院では、先日カルテの設定をいじって比較的簡単に計算できるようにしました。 ですので十分臨床の現場で患者さんへ反映できると思います。
この計算が煩雑なために、患者さんもわかりにくいし、医者の方も大変すぎて、なかなかこのガイドラインが定着しない原因の一つになっていると思います。 

大きく変わった点3


いままでコレステロールが高くても、「まだ若いし治療介入はもう少し待ってみよう」などと、実は私の外来でもいろいろさじ加減を加えていました。 今回のガイドラインに当てはめて、今までの治療を振り返ってみると、結構それなりに今のガイドラインに沿った治療をしていたことがわかりました。 ただ今までの私の指導だと、HDLがとても高い人への対応が少し緩かったり、血圧や糖尿病患者さんへの対応無かったり、やはり新しいガイドラインに変わっても今まで通りというわけでは無いようです。 ただ、今までさじ加減でやっていたことが、ある程度論理立てて判断できるようになった点はありがたいです。

これから外来で少しずつ、患者さんに説明申し上げますので、よろしくお願い致します。
これに合わせて、
ホームページの高コレステロール血症の項目も新しいガイドラインに沿って書き直してあります。
三好クリニック(内科)
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