コレステロールは下げた方がよいのか? 下げない方がよいのか?1

結論から言うと、私は、コレステロール治療の専門家ではないので、高脂血症学会の定めるガイドラインに従って治療する事にしています。 つまり適正な値にコントロールした方が良いと思います。下げないで放置するより、きちんと下げた方が良いだろうと考えています。

下げない方が良いだろうという意見は、日本の論文でいくつか見られる様です。 ただその根拠となるデータの解釈が間違っているようです。 マスコミの方々は読者が望むことを書く傾向にあります。 なので辛い食生活の制限を行っている患者さんにとってみて、「それをしなくてよい、好きなように暮らしてよい」と言われるのはとても魅力的で、それに飛びつきたくなる気持ちもわからなくはないです。 ただ、医者としてそれを申し上げるには、あまりにも無責任かなと思われます。 きちんとデーターの解釈が行われた研究論文は、いずれも悪玉コレステロールがきちんと下がっていた方が寿命が長くなることをしめしていて、これは大部分の医者の意見ではないかなと思います。 

ではどうしてこんな混乱が起こったのでしょうか? 一番大きな原因は、10年ぐらい前まで、コレステロールの値は総コレステロールと呼ばれる値で判断していました。 この総コレステロールの中には、善玉コレステロール(HDLコレステロール)と悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が含まれています。 一部中性脂肪にも含まれています。 善玉コレステロールが高い方も、総コレステロールが高く表示されてしまうため、少し古い臨床研究のデーターだと、コレステロールが高い患者さんの中にも、例えば善玉コレステロールがとても高い方も含まれていて、そういった例が、データーを薄めてしまい。 きちんとした結果が出にくくなっていました。 
もう一つは、コレステロールが高くてそれが問題になるのが10年とか20年先になって初めてその結果が出てくるため、なかなか治療行為とその結果が直感的に把握しにくいところにあります。 医者になるための教育で、我々医者は「自分の経験を信じすぎるな」ということを教わります。 一人の医師が診察している患者さんの数は限られています。 その少ない患者さんのなかでも、医者に親切心から良くなっていないのに良くなったとおっしゃられたり、まったく治療がうまく行かないと通院すらされなくなり医者が悪くなった事を知らなかったり、さらに薬を飲んだという安心感から症状が良くなった気がしてしまったり(偽薬効果と言います)・・・。 それらの間違った情報が経験として体験されるため、医者はあまり自分の経験を信じないように教育されるのです。  では何をよりどころに治療をするかというと、臨床の患者さんの治療体験を大量に集めた論文をよりどころにするのです。 そしてその莫大なデーターを読み解くには、実は専門的な統計学という考え方を学んでおく必要があるのです。 実際の論文は、データは正しいですが、そのデータから得られる教訓は、よい医学雑誌でなければ間違った解釈がされていたりすることもあります。 なので、きちんとした教訓を得るには、それぞれのドクターがきちんと統計学を学んでいる必要があるのですが、残念ながら、私の身の回りを見渡してみて統計学をしっかり理解している先生は4人に1人ぐらいではないかと思います。 なので医者によっても、間違った解釈をそのままうのみにしてしまう場合があり、そういった医者の言動がしばしば混乱を引き起こすことがあるのです。 しかしそういった間違いも、何人かの医者や科学者が集まって彼らが合意できる水準を満たしたものは、間違いも少なく、ある程度の水準を確保していると言えます。 それがガイドラインなのです。

次回はコレステロールがどういった物質なのかを書いてみましょう。
三好クリニック(内科)
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