「ちょっとちくっとしますよ」1
採血とか注射とかって痛いですよね。 私も時々採血されますが、平気そうな顔しながら、痛そうだななんて考えながら、足の指をもぞもぞさせてたりします。 大人になったら我慢するもんだって教わりましたから・・・。
今は違いますが、我々が若い研修医の頃は慶応大学病院の内科外来の患者さん全員の採血をまとめて採血するドクターが決まっていて、 毎週交代で4時間ぐらいの間、ただただ採血するということをさせられてました。 その当時は、いやでいやでしょうがなかったですが、今にして思えば、多くの患者さんで採血のトレーニングができたという面と、外来で見せる患者さんの顔と違う、どちらかというと、とても率直な、厳しい意見を捨て台詞のようにおっしゃられたりして・・。 それで自分たちの立場を理解できるという意味でもよかったのだろうと思います。 患者さんはそういったビギナーが担当するのでいやだったかもしれませんね・・。 今更ですが、すいませんでした。
私の同級生で一緒に処置室当番(採血当番)に当たっていた人は、少し採血が苦手だったみたいで、よく「へたくそ」とか「今までで一番痛かったよ!」と言われていたのを聞いた覚えています。 私も、言われていたんでしょうけど、なんだかよく思い出せないですね。 きっと自分の傷口を見ない様に忘れているだけなんだろうと思います・・・。 よく当番が終わったと、みんなで昼飯を食べながら、愚痴を言い合っていました。
医者が診察して得られる所見と違って、採血で得られるデーターはとても客観的です。 現在の医療は一人の医者が一人で考え診察するというものではありません。 我々の様な小さなクリニックでも、データーを開示の希望があればすぐいたしますし、ほかの大病院の医者にデータを見せていただいても、多くの医者が同じような意見に達する、そういった治療をしてゆく必要があります。 そういった点で我々医者の治療のよりどころであり、患者さんと病状を確認しあうために必要な検査でもあります。 例えるなら、方位磁石とか車のスピードメーターとかでしょうかね。 磁石やスピードメーターと違って、一度見るたびに痛むのが難点ですが・・。
今、僕は採血するときに、おそらく「ちょっとちくっとしますよ」って申し上げていると思います。 実は、口でしゃべりながら、採血の場所(針の刺位置とか角度とか)を考えているので、自分で何言っているのかあまり覚えていません・・。 でも研修医の頃、先輩の先生が言っているのを聞いて、みんないろんなことを言っていたのを覚えています。 正直どういうのがいいのかって、迷いますよね。 特に子供さんとかだと・・・。
医者:「痛くしないからね」
子供:・・・・(無言)。
医者:「あ!、あそこにアンパ○マンがいるよ!」 チク
子供: 痛ーい! 先生の嘘つき!!
本当はどんなことを言っても痛いのは痛いのです。 ただ、どうしたらより痛くないのか、痛くない方法をいろいろ考えながら採血しています。
ではどうして、針を刺すと痛いのでしょうか? もしかしたら、これを読んでいる人は「馬鹿なんじゃないの、針刺すんだから痛くて当然だよね」と思っている人多いんじゃないでしょうか? でもそんな当然のことを、理詰めで考えていくのが医学なのです。
針を刺すときに痛みがあるポイントは2つあります。 まずは皮膚の表面の感覚神経です。 皮膚の表面には感覚神経がたくさん分布してます。 でもそれは均一に存在しているわけではありません。 感覚神経のネットワークは、皮膚の表面の「表皮」といわれる、細胞が積み重なった部分の真下あります。 なので痛みの第一ポイントはその表面を貫通するときにあります。 その表皮のネットワークを針で圧迫する、あるいは直接切断して神経が電気信号を出すことで、脳が痛みとして感じとります。 その刺激が弱ければ、人は、それを「かゆい」ぐらいに感じるでしょうし、強ければ、痛みや、あるいはもっと強ければ、熱いという感覚として感じることになります。 その感覚神経は面ではなく、点で感じています。 ですので運良くその点を刺激しなければ、痛みを感じない訳です。 そのネットワークの密度が多いところは痛みを感じやすく、ネットワークの密度が薄いところだと感じにくくなります。 しかしいくら密度の薄いところで針をさしても神経に当たってしまえば、痛みを感じることに変わりありません。 なので患者さんが採血の時に痛かったり、痛くなかったりする原因の一つは、ほんの些細な偶然によって決まっています(なんだか書いてていいわけがましい気がしてきました)。
脱線しますがこのネットワークの密度ですが、皆さんも簡単にチェックすることができます。 たとえばコンパスや、両方とも針になってるコンパス(デバイダーといいます)で、手や足を触ってみてください。 大きさを狭めていって、針先を2つに感じる距離られる最小の距離、 これを「2点識別閾」というのですが、これが小さいほど感覚神経の密度が高く、痛みに敏感ということになります。 小さいのは、やはり指先とか、手のひらとか手の裏ですね。 肘や二の腕の外側などはそれが大きく比較的鈍感ということになります。 なので通常皆さんの採血をされるときには、肘から採血することが多いわけです。
皮膚の表皮の厚みや堅さ、そして針の先端の力が加わる面積によっても痛みの強さは決まってきます。 具体的には太い針の方が、針先の面積が大きいので痛みも大きくなります。 そして先端が表皮に当たってから表皮を貫通する時間、皮膚にかかる圧力は同心円状に周囲に広がり、より広い周囲の感覚神経を刺激しますので、針があたってから表面の表皮が貫通して表皮が引っ張られている時間が短いほど、もっと簡単に言うと、「迷いなく、ざくっ」と刺した方が痛みが少ないのです。 これはよく剣豪小説などで、あまりに切れ味がよすぎて、切られたことがわからない、といった表現がありますよね。 また日常では、紙の端とかで皮膚が切れたりしたときに(かまいたちとかっていいますね)、切れた瞬間はわからなくても、後から結構ぱっくり大きく切れてたりすることありますよね。 それは感覚神経が表皮の真下に集中しているので、その部分を抵抗なく切ってしまうと、痛みの神経を刺激する数が減り、痛が感じにくいという原理なのでしょう。 もうちょっと具体的に言うと、「他人の痛みをあまり躊躇しないで、針を迷いなくブッ刺すひと」のほうが、痛みを感じにくくすることができる訳です。 ちょっと術者にとっては複雑なのです。 そしてもう少し踏み込んで言うと、患者さん側が明らかに痛そうにしていると、刺す方も痛いかもという迷いがでて針刺しのスピードが遅くなり、その分痛くなるという悪魔のような法則が成立します。 なので僕自身は、心を鬼にして、指すときは血管を貫通させで奥まで貫かないように手加減しながら、勢いよく皮膚を貫通させるようにしてます。
さて、だいぶんボリュームが大きくなってしまったので、 採血の時に痛みを感じる理由その2はまた後日掲載します。
続き
今は違いますが、我々が若い研修医の頃は慶応大学病院の内科外来の患者さん全員の採血をまとめて採血するドクターが決まっていて、 毎週交代で4時間ぐらいの間、ただただ採血するということをさせられてました。 その当時は、いやでいやでしょうがなかったですが、今にして思えば、多くの患者さんで採血のトレーニングができたという面と、外来で見せる患者さんの顔と違う、どちらかというと、とても率直な、厳しい意見を捨て台詞のようにおっしゃられたりして・・。 それで自分たちの立場を理解できるという意味でもよかったのだろうと思います。 患者さんはそういったビギナーが担当するのでいやだったかもしれませんね・・。 今更ですが、すいませんでした。
私の同級生で一緒に処置室当番(採血当番)に当たっていた人は、少し採血が苦手だったみたいで、よく「へたくそ」とか「今までで一番痛かったよ!」と言われていたのを聞いた覚えています。 私も、言われていたんでしょうけど、なんだかよく思い出せないですね。 きっと自分の傷口を見ない様に忘れているだけなんだろうと思います・・・。 よく当番が終わったと、みんなで昼飯を食べながら、愚痴を言い合っていました。
医者が診察して得られる所見と違って、採血で得られるデーターはとても客観的です。 現在の医療は一人の医者が一人で考え診察するというものではありません。 我々の様な小さなクリニックでも、データーを開示の希望があればすぐいたしますし、ほかの大病院の医者にデータを見せていただいても、多くの医者が同じような意見に達する、そういった治療をしてゆく必要があります。 そういった点で我々医者の治療のよりどころであり、患者さんと病状を確認しあうために必要な検査でもあります。 例えるなら、方位磁石とか車のスピードメーターとかでしょうかね。 磁石やスピードメーターと違って、一度見るたびに痛むのが難点ですが・・。
今、僕は採血するときに、おそらく「ちょっとちくっとしますよ」って申し上げていると思います。 実は、口でしゃべりながら、採血の場所(針の刺位置とか角度とか)を考えているので、自分で何言っているのかあまり覚えていません・・。 でも研修医の頃、先輩の先生が言っているのを聞いて、みんないろんなことを言っていたのを覚えています。 正直どういうのがいいのかって、迷いますよね。 特に子供さんとかだと・・・。
医者:「痛くしないからね」
子供:・・・・(無言)。
医者:「あ!、あそこにアンパ○マンがいるよ!」 チク
子供: 痛ーい! 先生の嘘つき!!
本当はどんなことを言っても痛いのは痛いのです。 ただ、どうしたらより痛くないのか、痛くない方法をいろいろ考えながら採血しています。
ではどうして、針を刺すと痛いのでしょうか? もしかしたら、これを読んでいる人は「馬鹿なんじゃないの、針刺すんだから痛くて当然だよね」と思っている人多いんじゃないでしょうか? でもそんな当然のことを、理詰めで考えていくのが医学なのです。
針を刺すときに痛みがあるポイントは2つあります。 まずは皮膚の表面の感覚神経です。 皮膚の表面には感覚神経がたくさん分布してます。 でもそれは均一に存在しているわけではありません。 感覚神経のネットワークは、皮膚の表面の「表皮」といわれる、細胞が積み重なった部分の真下あります。 なので痛みの第一ポイントはその表面を貫通するときにあります。 その表皮のネットワークを針で圧迫する、あるいは直接切断して神経が電気信号を出すことで、脳が痛みとして感じとります。 その刺激が弱ければ、人は、それを「かゆい」ぐらいに感じるでしょうし、強ければ、痛みや、あるいはもっと強ければ、熱いという感覚として感じることになります。 その感覚神経は面ではなく、点で感じています。 ですので運良くその点を刺激しなければ、痛みを感じない訳です。 そのネットワークの密度が多いところは痛みを感じやすく、ネットワークの密度が薄いところだと感じにくくなります。 しかしいくら密度の薄いところで針をさしても神経に当たってしまえば、痛みを感じることに変わりありません。 なので患者さんが採血の時に痛かったり、痛くなかったりする原因の一つは、ほんの些細な偶然によって決まっています(なんだか書いてていいわけがましい気がしてきました)。
脱線しますがこのネットワークの密度ですが、皆さんも簡単にチェックすることができます。 たとえばコンパスや、両方とも針になってるコンパス(デバイダーといいます)で、手や足を触ってみてください。 大きさを狭めていって、針先を2つに感じる距離られる最小の距離、 これを「2点識別閾」というのですが、これが小さいほど感覚神経の密度が高く、痛みに敏感ということになります。 小さいのは、やはり指先とか、手のひらとか手の裏ですね。 肘や二の腕の外側などはそれが大きく比較的鈍感ということになります。 なので通常皆さんの採血をされるときには、肘から採血することが多いわけです。
皮膚の表皮の厚みや堅さ、そして針の先端の力が加わる面積によっても痛みの強さは決まってきます。 具体的には太い針の方が、針先の面積が大きいので痛みも大きくなります。 そして先端が表皮に当たってから表皮を貫通する時間、皮膚にかかる圧力は同心円状に周囲に広がり、より広い周囲の感覚神経を刺激しますので、針があたってから表面の表皮が貫通して表皮が引っ張られている時間が短いほど、もっと簡単に言うと、「迷いなく、ざくっ」と刺した方が痛みが少ないのです。 これはよく剣豪小説などで、あまりに切れ味がよすぎて、切られたことがわからない、といった表現がありますよね。 また日常では、紙の端とかで皮膚が切れたりしたときに(かまいたちとかっていいますね)、切れた瞬間はわからなくても、後から結構ぱっくり大きく切れてたりすることありますよね。 それは感覚神経が表皮の真下に集中しているので、その部分を抵抗なく切ってしまうと、痛みの神経を刺激する数が減り、痛が感じにくいという原理なのでしょう。 もうちょっと具体的に言うと、「他人の痛みをあまり躊躇しないで、針を迷いなくブッ刺すひと」のほうが、痛みを感じにくくすることができる訳です。 ちょっと術者にとっては複雑なのです。 そしてもう少し踏み込んで言うと、患者さん側が明らかに痛そうにしていると、刺す方も痛いかもという迷いがでて針刺しのスピードが遅くなり、その分痛くなるという悪魔のような法則が成立します。 なので僕自身は、心を鬼にして、指すときは血管を貫通させで奥まで貫かないように手加減しながら、勢いよく皮膚を貫通させるようにしてます。
さて、だいぶんボリュームが大きくなってしまったので、 採血の時に痛みを感じる理由その2はまた後日掲載します。
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